text(二次創作)

□夕焼けの君と
1ページ/1ページ

「はじめまして」

緊張した面持ちでそう頭を下げた少年は、今はその面影こそ残れど随分と大きくなった。



「いってらっしゃい」
その美しい笑顔は、まるで夕焼けのようだと思いながら白いボールを持つ。何度も壊しては、友人に叱られながら直してもらったこのバレーボールとも、今日で別れを迎える。

「平滝夜叉丸」
情事のときに囁くような声になったのは決してわざとなどではない。その声を聞くときにはいつも蕩けた瞳をしていた彼は、今は瞼をピクリと動かしただけで目を閉じている。
滝夜叉丸、ともう一度呼ぶと、今度は小さく返事が来る。
だから、笑顔を作ってみせる。
「私な、楽しかったぞ」
心から言えること。

馴れ合う気などなかった。
忍びになればもとより敵の奴らとなんて、一緒に寝ることすら恐ろしく思えた。まして、自分の筋力は恐ろしいものでしかなくて、先輩は遠巻きに私を眺め、後輩は近づこうとなどしなかった。
そんな毎日で、私は本当の忍びになれるのだと本気で思っていた。


私が、三年生になった時。体育委員会に一年生が入った。二年生はいなかった。私と一緒に委員会を支えることなど出来ない、と先生に直談判したらしい。
私を遠巻きに眺めることのない数少ない先輩は、私の頭を撫でて「明日から一年生が来るぞ、一緒に委員会を頼んだぞ」
とおっしゃった。彼は私なんか比べ物にならないくらい強い、体育委員会の委員長だった。
仲間と一緒に遊ぶ先輩は、私にはあまり関係のないものだと、私は諦めていたけれど。それでも彼は私の憧れだった。到底たどりつけることはないだろう、と思いながら。

だから、私はその一年生にも期待などしていなかった。

「はじめまして…!」
彼が頬を赤く染めて緊張しながら私の袖をつかんだその時もまだ。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ