お願い! 神様サンタ様
□@調合、爆発。
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「ここ……どこ?」
真っ白の空間。
いるのは花子だけ。
心細くなって声を出しても、誰も返事をしてくれない。
これは王道ラブストーリーなんかじゃなくて、ホラーかもしれない。
花子はそう思いこむと、しゃがんで目を瞑った。
だって、目を開けていたら見たくないものを見てしまうかもしれない。
どれくらいそうしていただろう。
誰かが花子の肩を触っている。
幽霊。
どうしようどうしよう、と軽いパニックになっていると、優しげな声が耳の近くで聞こえた。
「気分、悪いの?」
ガバッと顔を上げる。
だって、この声は明らかに幽霊じゃない。
甘い男の人の声。
ずっと聞いていたいような、王子様の声。
声の方向に振りかえると、心臓が止まりそうになった。
地面に尻もちをつき、早鐘のようになる心臓を鎮めようと胸に手をやる。
それもそう、花子の至近距離にいた人物は、金髪碧眼の王子様だった。
優しげで男らしさもあって、世界中のだれもがイケメンだと認めるだろう容姿。
カッコよすぎて、花子にはどうしていいかわからない。
だって、カッコいい。
一生見ていられるくらいカッコいい。
「あの、気分は平気? 顔真っ赤だよ」
喋り方まで王子様。
サンタ様、ありがとう。
花子は喜びと緊張で涙目になりながらも、目の前のイケメンと会話をしようと頑張った。
「へ、平気、です。……あの、イケメンさんの、名前を窺っても、い、いいですか……?」
「イケ……。えっと、僕はアルベージュ・サウリアントといいます。貴女は?」
「は、はい……。お美しい名前で……。私は、夢野花子と申します……」
「花子さん。涙出てますけど、平気ですか?」
アルベージュはそう言うと、人差し指で花子の涙を掬う。
知らずの内に出ていた涙が、今度は自分でも分かるくらい、ドバッと出た。
だって、こんなイケメンに触られたら。
「おーおー、仲がよろしいことで。そっちのが俺にはやりやすいから、いいんだけどな」
突然の声に驚き、ドバドバ出てアルベージュを困らせた涙が引っ込んだ。
花子の後ろから声がした。
振り返ると、ロックバンドでギターとボーカルを兼任していそうな目付きの悪い男の人が白い袴を着て立っている。
似合っていない。
そして、その隣には茶色い柔らかそうなフサフサ耳をつけた、平社員っぽい男の人。
どこかの低級コスプレ大会の帰りっぽい二人組。
ロックバンドの男の人が、面倒くさそうに口を開いた。
「俺、神。こっちが召使い。で、お前たちの願いを聞くことにした」
確かに、花子の願いは叶っている。
隣で片膝をついているアルベージュを見て、花子はまた涙が出そうになった。
「でも私、サンタさんにお願いして……」
「神社でサンタに願う奴、珍しかったから、叶えてやることにした。喜べ」
「……や、やったあ〜」
「で、お前もだ。まあ、お前はついでだからその女に礼を言うんだな」
呆然とするアルベージュは、花子を見る。
碧眼と目が合って、また心臓が止まるところだった。
やっぱり遠くで見ているに限るな、と美系の眩しさに目を逸らした。
「花子さん、ありがとう」
「あ、その、花子じゃなくて、花って呼んでください。からかわれる名前なので、あんまり好きじゃないんです」
「そっか。じゃあ花、僕もアルでいいよ。長いでしょ、アルベージュって」
「あ、は、はい……」
イケメンが笑顔になると、周囲100メートルを照らしそうなくらい眩しい。
手で目を覆うと、必死で心を落ち着かせた。
それもそうだ。
だって、イケメンとニックネームで呼び合う仲になるなんて。
一生覚めて欲しくない夢だ。
「……話進めるぞ。花子の願いが金髪碧眼王子様風男子を恵むこと。で、アルベージュの願いが日本で暮らすこと。一石二鳥だと考えた俺は、アルベージュを桜丘高校に転入させることにした」
夢の神様、どうかこの幸福を終わらせないで。
一生目が覚めなくてもいいから。
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