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WALTZ





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──すると石の下から斜に自分の方へ向いて青い茎が伸びて来た。

見る間に長くなつて丁度自分の胸のあたり迄来て留まつた。

と思ふと、すらりと揺らぐ茎の頂に、心持ち首を傾けてゐた細長い一輪の蕾が、ふつくらと弁を開いた。

真白な百合が鼻の先で骨に徹へる程匂つた。

そこへ遥の上から、ぽたりと露が落ちたので、花は自分の重みでふらふらと動いた。

自分は首を前へ出して冷たい露の滴る、白い花弁に接吻した。

自分が百合から顔を離す拍子に思はず、遠い空を見たら、暁の星がたつた一つ瞬いてゐた。



「百年はもう来てゐたんだな」と此の時始めて気が付いた。



(出典:岩波書店1994年刊「漱石全集」夢十夜/第一夜より)





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