短編夢小説 A

□お仕置き
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私は、真島さんの家で留守番をしていた。真島さんは幹部会で遅くなるらしい。時計は十時を回っている。真島さんのために一生懸命作ったハンバーグは、ラップをかけてキッチンに置いた。私は、料理が終わってから、リビングにある黒い革張りのソファにゆったり座ってDVDを観ている。六十インチの画面は迫力がある。映画はクライマックスになった。私は身を乗り出していた。

時代は中世のイギリス。主人公の女の人が霧がかかった草原を歩いていると、想いを寄せる男の人が歩いてくる。二人は近づくと、両手を握った。

『愛しています』
彼は言った。
彼女は彼の手にキスを落とす。
『貴方の手、冷たいわ……』
オレンジ色の朝日が輝いて、二人はそっと額を合わせた。

(次どうなるの?女の人が告白するの?男の人が抱きしめるの?)

私は、画面に吸い寄せられるように、このシーンに見入っていた。その時だった。
「お〜い、美香、帰ったで〜」
真島さんの声が聞こえた。「うーん」と返事したけど、画面から目が離せない。
「帰ったで」
真島さんの声がさらに大きくなった。

突然、真島さんが後ろから首に腕を回してきた。これでは動けない。真島さんは私の耳元でこう言った。
「なあ、『お帰り』は、ないんか?」
「あ、ご、ごめん……」
「何や、俺よりテレビかいな」
握りこぶしで頭を軽く叩かれる。
「痛っ。ほんとに、ごめん!」
「まだまだやなあ?」
「え!?」

真島さんは私の首から腕を離すと、私をソファの背に押し倒して、手を背にがっしりと置いた。私を見下して意地の悪い笑いを浮かべている。
(真島さん、何するつもり?)
上目遣いに真島さんを見つめながら、ひそかに鼓動が高鳴ってしまう。
真島さんが、ジャケットの脱ぎ捨て、黒のネクタイを段々と緩めた。
「美香にお仕置きせなアカンなあ」
シュと音を立ててネクタイが引き抜きかれ、無造作にソファへ放り投げられた。体がカッと熱くなっていく。
「もう分かっとるやろなあ?」
低い声でそう言った真島さんは、冷ややかに笑いながら、シャツのボタンに手をかけた。

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