般若の素顔と極道の天使@

□6. 約束
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朝食後、真島は、いつもの格好に着替えて縁側に座っていた。居間から遙が掃除機をかける音が聞こえる。真島が、「手伝うか?」と訊いたが、「今日は私の当番だから」と断られたのである。

真島は、暑い日差しが照りつける庭をボーっと眺めていた。子供たちが、庭の手入れをしたり、マメの世話をしたりしている。真島は煙草に火をつけて、煙を吐いた。煙が真っ青な空に吸い込まれていく。
「ええ天気やなぁ」

真島は、煙草を吸いながら、子供たちの様子を見ていた。どうやら作業が終わったらしい。真島の周りに、子供たちが一人二人と集まってきた。うっとうしい、と思った。だが、そんな真島に構わず、子供たちの質問攻めがスタートした。

「おじさん!」
「なんや?」
「どうして、裸に服、着てんだ?」
「おまえも裸に服を着とるやろが」
「どうして、刺青が胸にもあるの?」
「これが俺のスタイルや」
「ねえ…、その左目の上にある黒くて、白い蛇みたいなのが描いてあるの、なあに?」
「ああ、これはなぁ、眼帯ゆうて、まあ……オシャレやねん」
「ねえ、じゃあ、どうして黒い手袋はめてるの?暑いでしょ?」
「これもな、夏は暑いねんけど、オシャレなんや」
「どうして?」「ねえ……」「これは?」「昨日の?」
「あ〜!うるさいんじゃ〜!」

真島は怒鳴った。子供たちは一気に静まった。
「スマン。おっちゃんな、質問にちょ〜っと疲れたんや。一人にしてくれるか?」
遥が、急いで真島のもとへやって来た。
「みんな、向こうで遊ぼうね」

そう遥が言うと、子供は四方八方に散った。遥が静かに真島の横に座った。その瞳はまっすぐ前を見つめ、優しさに満ちている。真島は、シーサーの顔が彫られている灰皿に煙草を押しつけた。

「なあ、遥ちゃん、こないにのんびりするのも、久しぶりなんや。なんかええのぉ」
「東京ではのんびりできないの?」
「でけへん、でけへん。ガチャガチャして、つまらんモン、ばっかりや」
「じゃあ、真島のおじさんが、時々、遊びに来てくればいいのになぁ」
「ホンマか?遥ちゃんがそう言うてくれたら、絶対来るでぇ」
「うん!本当に約束だよ」

遥は手を差し出した。それは今朝見たばかりの白く細い手。真島は、黒の革手袋をゆっくりと脱いだ。
「わぁ〜、真島のおじさんの手、細くて長い指。ピアニストみたい!」
「なんや、ピアニスト見たことあるんか?」
「見たことないけど……」
遥は唇を尖らせる。
「なんやそれ」
真島は微かに笑った。
「ほな、約束な」
真島が遥の手をそっと握り締めた。遥の右手は真島の手のひらですっぽり包めるくらい小さく柔らかかった。

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