般若の素顔と極道の天使@

□7. 誤解
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その日の夜、真島は、居間で女子に囲まれていた。
「ねえねえ、おじさん、遊んで〜」
「そないなこと言われてもなぁ。おっちゃん、女の子の遊びは知らんのや」
その様子を見ていた桐生は、「兄さんに無理を言うんじゃない」と注意する。

真島は、何とかして女子が喜びそうな「遊び」を考えた。すると、ふとキャバ嬢とのデートを思い出したのである。真島は、たまに情報を集めるため、キャバクラへ通ったり、キャバ嬢を同伴したりする。そこで、キャバ嬢をデートに連れて行く人気スポットを子供たちに話したらどうだろうと閃いたのだ。

「よっしゃあ。ほな、東京の話でも聞いてみるか?」
「うん!聞きた〜い」
女子全員が目をキラキラさせて、真島の話を今か今かと待っている。遥も、年下の女子たちとおしゃべりしながら、真島の話を待っている。桐生も、真島の話が聞きたいようで、女子の近くでテレビを見ていた。
「まずなあ、お台場ちゅう所にな、カフェがあるんや」
「そのカフェにはおいしいケーキいっぱいある?」一番年下の泉がワクワクした瞳で尋ねる。
「ぎょうさんあるで。どんなカフェかちゅうとなぁ」

真島が答えると泉は、上機嫌になって瞳を輝かせる。
「そのカフェからは、レインボーブリッジっちゅうでかい橋や、東京タワーや海が見えるねん。でな、そこのパンケーキが、ごっつ旨いねん。ふわふわのパンケーキが三つ重なっとってなぁ。上にはイチゴ、ベリー、バナナがのっとるんや。ほ・ん・で、上から、メイプルシロップが、た〜っぷりかかっとるやでぇ」
「わぁ〜、すごく美味しそう!」
「私も、そんなオシャレなとこ行ってみたいなぁ〜」

女子たちの目はうっとりしている。おそらく、それぞれの頭の中でそのカフェを想像して、行った気持ちになっているのだろう。真島は、得意な顔で女子の顔を一人ずつ見ると、身を乗り出した。
「ほな、次な。銀座っちゅうところの宝石屋に行った時や。そしたら、特別品ちゅうって、マメの目くらいのブルーダイヤの指輪が、五億くらいやったのぉ。めっちゃキラキラして沖縄の海の色みたいで綺麗やったでぇ。ほれ、これくらいの大きさや」
真島は、右手を女子の前に出すと、人差し指と親指で小さなリングを作り、軽く振ってみせた。

「私も見たいなあ〜」
「そんな指輪、一回でいいからつけてみたい!」
そんなふうに女子が言う中、以前、今まで黙っていたエリが恐る恐る真島にこう聞いた。
「五億って、どれくらいのお金なの……?」
「そりゃ、えらい大金や。嬢ちゃんが一生かかっても食えへんくらいのケーキ買うても、まだまだぎょうさん金残るで!」
真島は、豪快に大声で笑った。

真島が次の話題に移ろうとした時である。
「真島のおじさん、誰と一緒にそういう所に行ってるの?」
と、遥が不思議そうに首を傾けて訊いた。
「キャバ嬢……、いや、あの、友達や」
「あ、そうなんだ……」

その途端、遥は無表情になり、その場を静かに立ち去った。
(アカン!遥ちゃんが行ってしもうた。キャバ嬢って言うたんが、大失敗や。嫌われてしもうた……)
真島は、ガックリと肩を落とした。その時、桐生が立ち上がった。
「遥、どうしたんだ?」
と言って遥を追いかけたのだ。
「桐生ちゃん、スマン。俺が余計なことを言ってしもうて……」
「いいんだ、兄さん。俺がちょっと話てくる」
そう言うと、桐生は部屋から早足で出ていた。

部屋に残された真島と女子たちは、気まずい雰囲気になってしまい、話をする空気ではなくなっていた。子供たちは、皆俯いている。
「遥おねえちゃん、大丈夫かなぁ」
幼い泉が涙目になっている。
「大丈夫に決まっとるやないけ」
真島は、彼女の顔を覗き込んで、ニッと笑って見せる。彼女が、ふふっと笑う。
「ほれ、まだまだ面白い話はあるでぇ。聞いてみたないか?」
女子たちが、少しずつ顔を上げて、お互いの顔を見る。
「うん、聞きたい」
「よっしゃあ。ほな、始めるでぇ!」
真島は、話を始めながら遥のことを考えたが、遥が戻ってくることはなかった。

女子たちと話を終えたのは、十時だった。真島は、縁側で煙草を吸っていた。見上げると、満天の星空が見える。背後から桐生がやってきた。
「兄さん、ちょっといいか?」
「おう、桐生ちゃんか。遥ちゃん、大丈夫やったか?」
真島は、内心動揺していたが、それを悟られまいと平静を装って訊いた。
「ああ。大丈夫だ。だが、何であんな態度をとったか教えてくれなかったがな」
「それは、俺がキャバ嬢とか言うたからやろ。不潔なおじさんって思うたんやろなあ」
「フッ」と桐生が苦笑して、
「ところで、兄さん。前に兄さんと交わした約束を覚えているか?」
と尋ねた。
「あ?何のこっちゃ?」
「遥のことだ」
「あ、あれか……」
真島は、桐生から目を逸らし、星空を見つめた。

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