日常〜疾風伝〜
□職権汎用
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「いやだ!!!」
火影執務室。
書類に囲まれた机の上で手を組み、困ったように眉を下げるはたけカカシ。
その向かいに立ちあからさまに不機嫌な顔をする立花アヤト。
暗部の装束ではなく緑の木ノ葉ベストを身につけている。
「そう駄々こねないでちょうだいよ。一応オレ、火影。で、これ任務。わかる?お前に拒否る権利ないからね」
カカシが呆れたように言うとアヤトはさらに不機嫌そうな顔をした。
「絶対いやだ!…なんでオレなのさ」
「だから何回も言ってるでしょーが。お前しか手が空いてないの」
「こんなに平和なんだから暇な上忍の一人や二人いるだろ」
「そう、それがお前」
カカシは面倒臭そうに言うと書類に目を落とした。
そして次々とハンコを押していく。
「だからオレ以外にいるでしょって意味!」
「みんな火影が変わったばっかでドタバタしてたり、外交やらなんやらで忙しいんだって。お前は外交できないんだからしょうがないだろ」
アヤトは少し前まではS級犯罪者として指名手配されていた身。
それが潜入任務であり味方であることが証明されたとは言え、まだ納得していない者もいるのが現状だ。
「‥‥‥だからってさー‥」
アヤトは言い返す言葉が見つからず口ごもる。
「なにも本気で相手しろって言ってるんじゃない。1日付き合ってやれって言ってんの」
書類に印を押したりサインをしたりと手を動かしながらカカシが言う。
どう足掻いても言い逃れすることが出来ず、アヤトはやけくそになって言った。
「‥‥ほらー、オレ弟みたいなもんなんだしさ‥もうちょい優遇してくれてもいいじゃん」
「残念だったな、オレは身内には厳しいタイプだから」
(‥このエロ親父‥)
アヤトが内心で悪態をつきながらカカシを睨むと、睨まれた本人は忙しなく動かしていた手を止め、アヤトを無表情で見返した。
「なに?まだなにか文句あるの?ああ、もしかして‥オレに口で勝てると思ってる?」
カカシはいつも通りののんびりとした口調で言ったが、目は違った。
「う‥!」
アヤトは昔一度だけ、カカシを本気で怒らせたことがあった。
その恐ろしさを思い出し言葉に詰まる。
「これ任務についての書類だから。じゃ、頑張って」
カカシは有無を言わせずにアヤトへ書類を渡すとニッコリと微笑んだ。
アヤトは渋々書類を受け取り扉の方へ歩く。
その背中にカカシは声をかけた。
「機嫌損ねるなよ」
「はいはい!わかってますよ」
アヤトは振り返りもせずに投げやりに言うと乱暴に扉を閉めた。
その扉をしばらく見つめるカカシ。
「はは‥まだまだだねぇ、あいつも」
カカシが微笑みながら言うとノックもせずに扉が開けられ、アスマが入ってきた。
「怖いねーカカシお兄ちゃん」
アスマがからかった口調で言いながら任務の報告書を手渡した。
「盗み聞きとは趣味が悪いな」
「へっ‥しかし何だってあんなに嫌がってたんだ?」
「あぁ‥女の子の世話役だからね」
「女の子?‥でもあいつ、別に子ども嫌いじゃなかっただろ」
「18だからね、子どもとも言えない歳なのよ」
「なるほどな、どっかのお偉いさんの娘か?」
「まあそんなとこだ」
カカシは先程受け取った書類に目を通し終え、印を押した。
「にしてもお前も性格悪りーな、あんなに嫌がってんなら他の奴へ回せばいいのによ」
「それができないのよ、なんせご指名だからね」
「ご指名?‥‥あいつは知ってんのか?」
「いや、言ってない」
「まあ言えば本気で逃げるだろうしな」
「これも任務だよ。やってもらうしかない」
「‥‥‥‥ああ、そうだな」
アスマはカカシから書類を受け取りながら、アヤトを気の毒に思った。