審神者の日常
□毛並
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「ぬしさま、遠征より戻りました。」
「ん?あぁ、小狐丸か。おかえり…ってどうした?その髪…。」
作業をしていた手を止め振り向くと、いつもの美しく艶やかな髪型からは一変し、敵に襲われたんじゃないかと思う程に髪を乱した小狐丸が居た。
「あぁ、これはぬしさまに見苦しい物を。今手入れして参ります。」
そのまま立ち去ろうとする小狐丸を呼び止め、
「そうじゃなくて…何があった?」
「いえ、ぬしさまが心配しているようなことは何も。只、遠征先で突風が吹いておりまして…気づけばこのように。」
小狐丸は自分の髪を触りながら苦笑する。
…そうだ。
「小狐丸、こっちに。」
私は来客用に、と部屋の隅に積み上げていた座布団を1枚取り自分の前に置く。
「…?はい。」
疑問を浮かべたような顔をしながらも言われるままに座布団に座る小狐丸。
私は化粧用の小物を入れてある巾着を棚から取り出し、更にその中から櫛を取り出す。
「いつもは自分や短刀達の髪くらいしか梳かないが…。」
お陰で朝はよくこの部屋が短刀達で大混雑になったりもする。
…たまに清光や鯰尾も来るのだが。
櫛を髪に通しそのままスッと下ろす。
「ん…。」
「痛かったりはしない?」
「いえ、とても…心地よい。」
私が小狐丸の横顔を覗き込むと目を細め気持ち良さそうにしていた。
なんだか、実家で昔飼っていた犬を思い出されるようだ。
…それにしても
「サラサラだけどふわふわでツヤツヤ…」
恐らく世の中の一般女子ならば誰もが憧れる髪質。
「あの、ぬしさま?」
私が髪に夢中になっていると、小狐丸の不思議そうな声が前から飛んでくる。
「え…?あ、ごめん。手触りが良くてつい。」
「…そうですか。」
そしてまた手を動かし髪を梳く。
「うん、大体こんなもんか。」
数分梳き続けそれなりに整った髪。
先程よりかはだいぶマシにはなっただろう。