審神者の日常
□擽合
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「入るぞ。」
私は、襖の横に掲げられた鯰尾と骨喰の紋が彫られた札を確認し声をかける。
「なんだ、何か用か。」
部屋の麩を開けると、まず無表情でこちらを見る骨喰が目に入る。
だが、いつもは部屋を訪れた瞬間にでも私に駆け寄ってくる鯰尾の姿が見当たらない。
今日は出陣や遠征、内番の予定もなかったはずだが…。
「鯰尾は?」
「…お前に会いに行ってくると言い、先程出て行ったが…会っていないのか?」
「え、私に…か?」
私が聞き返すと無表情のままこくりと頷く骨喰。
恐らく、入れ違いになってしまったのだろう。
この本丸は部屋数が多く入り組んでいるから、入れ違いだとか、迷ったりだとかは少なくはない。
「分かった、一度部屋に戻るよ。それで、もし鯰尾がこの部屋に戻ってきたら私の部屋に、と伝えておいてくれ。」
「了解した。」
骨喰の返答を聞いて私は静かに襖を閉める。
そして、そのままこの部屋まで来た道を引き返す。
「あー…入るぞ。」
自分の部屋に入るというのにこんな言葉はおかしいのではないか、とも思ってしまうが、一応中に鯰尾がいるかもしれないということを考え声をかける。
襖を開けて中を見ると真っ先にあるものが目に飛び込む。
「鯰尾?」
壁にもたれかかり、目を閉じている鯰尾。
「…寝ている、のか…?」
近づいてみると、規則的な寝息が聞こえてくる。
寝るのは構わないがどうして私の部屋で…。
そう思いつつ、鯰尾の寝顔を見つめる。
「気持ち良さそうに、寝てるな。」
こうやって刀達の寝顔をまじまじと見られることも滅多にない。
「肌白い、睫毛…長っ、髪も綺麗。…女の子、みたいだな。」
自分が本当は鯰尾と性別が逆なんじゃないか、というほどに整った顔立ち。
私は好奇心から鯰尾の頬を啄いてしまう。
「主。」
「え…うわっ…!」
私が頬を啄いた瞬間、鯰尾の目がぱちりと開き私の伸ばしていた腕を掴まれる。
そしてそのまま、驚いた勢いで身体が後ろに倒れ、気が付くと鯰尾に押し倒されているような体制になる。