カゲプロ

□しょうがない
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何て言うか……。
人は生まれた瞬間から、大体生きる道が決まる。

いくら分岐路があっても、どうしてもいけない道がある。

特に何も疑問に思うことなく、「こうしなさい。」といわれた道を歩く。

「勉強するのよ。将来のために。」

将来のために勉強したから、生きている間にやりたかったことは大半出来ないと悟る。

ああ、こうやって生きるのが普通なんだ。
こうやって生きないとダメなんだ。

結局何のために生まれてきたかわからないまま、死ぬ。

何かを成し遂げた人も、大きな記録を作った人も、結局生きていた意味は分かってない。

神様が、こういう指名を与えたと言う人もいるが、所詮、人が作った神では信用できない。ほんとの答えじゃない。
オレが求めてるのは……

ああ、うまく言えないな……。
まあ、簡単に言っちゃうと生きている意味が全く分からないっていうことっすけど。

考えると気持ち悪い。
将来のため教育され、将来の子につなぐため次の世代を教育する。
無限ループ。スパイラル。

結局この世界は、できてしまったスパイラルを壊せず進んでいるだけなのだ。


シンタローさん。

勉強という指名をしなくてもできちゃう人。
オレは学歴はそんなにない。
だから、シンタローさんの悩みとか全く分からない。

でも、オレは彼に惹かれてて……。

ただスパイラルにのめり込まれているだけなのに恋をする。

馬鹿だ。


世界に遊ばれてるだけなんだ。

恋なんてしなければよかった。

「……シンタローさん……。」

「なんだよ?」

つい漏れてしまった声は偶然にも通りかかった彼に聞かれてしまった。

「あ、ああ!シンタローさん!シンタローさんっすね!」
「どうしたんだ、お前。」

汗をかきぎみなやつが自分の名前を連呼したら、キモいだろうな。シンタローさんの顔がちょっと歪んでる。

「シンタローさん。」
「なんだ?」
「シンタローさん……。」
「何だって。」
「シンタローシンタローさん!!」

馬鹿みたいにシンタローさんを呼ぶオレ。
ああ、嫌われちゃうな。
こんなキモいやつ、嫌われちゃうな。

と、突然、頭にフワッとした感覚が生まれた。

……シンタローさんの手だ。

「……何か考え込んでいたのか?お前がこうなるの珍しいじゃねぇか。オレなんかでよかったら相談してみ?」

優しい声だった。

「カノに言っていたな。一人で背負いこむなみたいなこと。お前もだぞ?」

「違うんす。オレはカノみたいに良い奴じゃないから、自分のことしか考えてないから。」

「関係ねぇよ。」


……でも、こんなの何て言おう。
人に共有できる話じゃないと思う。

「シンタローさん。相談はできないっす。悩みではないっすし。定期的に考えちゃうんす。うまく言えないけど、皆、世界は皆不幸なんじゃないかって。オレはちょっと客観的にみてるんすかね。世界を。育ち方がちょっと違うっすから。……こんな、残念な世界で人を好きになっちゃった。でもそんなの、意味ないんすよね。だって……」
「そんなこと言うなよ。」

シンタローさんがフワリと、抱きついてきた。

「しょうがないんだよ。好きになっちゃったのはな。どうしようもないんだよ。お前はもっと、自分の幸せを考えろ?お前の悩みを無理に聞こうとはしないけど、いつだって甘えて良いんだからな。」

……ニジヲタコミュ障ヒキニートのくせに。かっこいいこと言うっすね。

「……しばらくこのままでいてくださいっす。」
「……ん。」

こんなどうしようもないこと考えるやつだから、こんなどうしようもない男好きになるんだろうな。

「たっだいま〜……って、え!!?」

カノが抱き合ってるオレをみて驚いた。

「ちょちょちょ……!!なにやってんの?セトずるいっ!」

「ん?お前もくるか?」

……シンタローさんは何も分かってないなぁ。
そんなとこも好きっすけど。

「行く〜!」

カノがオレらを抱き締めてシンタローさんはオレを、カノはオレとシンタローさんを抱き締める形になった。

暖かいな。

……なんかさっきまでかんがえてたのが馬鹿みたいだ。

あれっすよ。発作。発作なんすよ。あれは。オレは普段はもっと……カッコいいっすよ。

だからシンタローさん。

「……好きっす……。」

「ん?好き?……あ、ああ〜。そういえばさっき好きな人が、どうとか言ってたけど誰なの?」
「もうすぐ教えるっすよ。」

カノはクスクス笑ってた。

「今じゃないんだ〜。じゃあ、ボクも早くしないとね。」

「望むとこっすよ。」

シンタローさんだけは良くわからない顔してた。


そうだ。しょうがないんだ。
生まれちゃったことも、こうして育ったことも、皆に、シンタローさんに出会ったこと。恋したこと。

全部しょうがなくて、どうしようもないことなんだ。

そうやって考えると、いつもは言い訳にしか聞こえない言葉も、大切なワードに感じた。
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