自転車BOOK

□気付かせたもん勝ち
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「荒北さん…あんたいっつも新開さんと一緒にいますよね…」


そんなことを急に言い出した黒い髪の長身の男は、荒北の方をじっと見つめた。


その男がなぜここにいるのか知りもしない荒北は、正直なんかめんどくせぇと思っていた。


「なんでお前ここにい「チャリできました。」


即答。


いや、方法とか聞いてねェし、というのを口にするとめんどくさそうなのでやめた。


「ンで、チャリで来て?そんなことを言いに来ただけェ?」


「そうです。このまま放っておいたらあの人にとられてしまいそうで。


そう思ったら居てもたってもいられなくなって。」


「あんだよ?チャリの話か?んなら心配することねェよ。

直線ではムズイかもしんねーけど、エースアシストとしてはおめぇの方が上なんじゃね?」


荒北が話をしているにも関わらず、その男はムスッと口をへの字にしはじめた。


「…本当にあんた、手ごわいですよね。


でも、そういうのが仇となって流されそうで怖いんです。」


「は?おまえなにいってんのォ?俺があンのダメ4番に負けるとでも思ってんのか?」


話をいまいち掴めない荒北にため息をついたその男は、急にぎらぎらとした眼をしてこちらを見てきた。


匂いが…変わった…?


荒北がそう思った刹那、男の顔が荒北の耳元まで突然近寄ってきた。


そうすると、スンッと鼻をすすってから荒北に小さくつぶやいた。


まるで、わざと耳に息を吹きかけるように。


「荒北さんっていい匂いするんですよね…俺、この匂い好きです…


早く気付いてくださいよ…じゃないと俺、本気であんたを食べちゃいたくて仕方ねぇ…」


そう言われた瞬間、荒北は今までの言動の意味がわかった。


理解した後、耳元で言われたというのもあり、その男からすぐに離れた。


「…そういうことです、荒北さん。気を付けてくださいね。」


「てンめ…今泉ィ…」


その男―――今泉俊輔は、余裕のある顔でフッと笑った。


その笑顔はいつもおりこうチャン、と呼ばれていた荒北から初めて今泉、と呼ばれ少し嬉しそうにも見えた。


「あと、そんな顔で部活に行かないでくださいね。


俺の前だったら何回でもしてほしいんですけど。」


ハッとした荒北は自分の顔が真っ赤であることに気づき、必死に顔を隠した。


そんな姿も愛らしく見えた今泉は、その場を立ち去って行った。


必死に呼べ止める荒北の声を耳に入れながら。









     

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