あなたに恋をしました

□透明過ぎて気づかない
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「…何がどうなってんの」

北斗心軒でそばを食べていたらのれんを潜って咲城がやってきた。
そして俺をみての一言。
大方、この短くなった髪についてだろうか。

「いらっしゃい」
「お久しぶりです幾松さん。
ラーメン1つお願いします」

幾松殿に注文を頼み、ごく自然と俺の前に座った。
当然だと言わんばかりのその動作に内心溜息を吐く。

「…久しぶりだな」
「だね。
私が京へ行ってる間に一体何があったの」

その言葉に、箸の手を止めた俺の髪に触れ、咲城は寂しげな声を出した。
…何が、と言われても。
深く説明したところで変に心配させるのも忍びない。

「…俺には言えないこと?」

違うぞ、これは咲城に心配をかけたくないのではなく、あれだ!
あれだ!無闇やたらに心配をかけるべきではない…との、その…。

「桂?」
「…人斬りにあってな」
「へぇ人斬りに…は!?」
「それから…最終的には決着がついたぞ」
「話飛びすぎてないか!?」

出来上がったラーメンが運ばれて来る。幾松殿の冷たい視線に咳払いを1つ。

「…なんかよくわかんないけど、
髪以外に大事がないなら、よかった。ほんとに」

安堵したように笑みを浮かべ、眉が下がった。
その表情に咳払いをもう1つ。

「…さらりと言ってのけるな、咲城は」
「? あ、これ。
京都土産の八ツ橋。特に珍しくもないけど」

幾松さんもどうぞ、と箱を2つ出した。

「桂、甘いの嫌い?」
「いや、嫌いではない」
「じゃあ嫌いじゃないけど特に食べたいとは思わないとかそーゆーあれ?」
「あれとはどれだ。そんなことはないぞ」
「ん。よかった」

また、安堵した表情を浮かべる。
その綺麗で、優しい笑みからしばらく目が離せなかった。

「桂、そば伸びるよ」

いつの間にかラーメンに手をつけていた咲城はしばらく固まっていた俺に声をかけた。誰のせいだと…!

「…。」

いや、どうして俺が咲城に見惚れていたのだ、そもそもそこがおかしいだろう。
敵である真選組の1人からお土産をもらって、密かに喜んでいるだなんて、おかしいだろう。

「…。」
「…なんだ、どうした?」
「さっきから百面相パレードだなって思って。うん、可愛いよ桂」
「なっ、」

驚いて思わずその場を立ち上がる
そんな俺をどこか嬉しそうに見る目前の相手になんだかはずかしくなった。

「武士に可愛いとはふざけているのか!」
「いやいや、武士として可愛いじゃなくて、桂が可愛くて愛らしいってことだから。
俺一言も武士とは言ってない」

冷静に返されて大人しく座る。

「武士である桂も好きだけど。
髪が短くても新鮮でいいと思うよ。
ちゃんと、私の好きな桂だ」

ふっと見せた笑みに、顔が熱くなるのを感じた。
くそっ、なんでこんなに俺ばかり…!

「…あんたら、他所でやってよ」

幾松殿の呆れた声に、咲城は「ハハッ」と楽しそうに笑った。


透明過ぎて気づかない

(ゆっくりと、俺の心に澄み渡る)
 

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