兄と弟と妹と

□過去話とか聞いても反応に困る時ってある。
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「やっ、久しぶり」

初めてそいつと会った時は、

「元気にしてた?神威」


――――――――――自分の死期を悟った。

「、兄さん」

あの団長の声が震えている。
わずかばかり、団長が怯えている。

「悪いね、船、壊しちゃったみたいだ」

薄っぺらい笑顔に似つかわしくない、上辺だけの謝罪。
そんなの、俺でもわかるくらいの。

「…。」

団長は動かない。
団長の後ろにいる俺には、今団長がどんな顔をしているのかすらわからない。
《兄さん》と呼ばれた男は、傘を担いで、辺りを見回した。

「…ここじゃなんだし、個室、用意してくれるか?」

体の芯から冷えるような、冷や汗すらも凍てつくように冷たく、にっこりと微笑んだ。


++++++++++++++++++++




指令室にはその男と、団長と俺。
正直頭が混乱していて状況が整理できないでいる。
こいつはいきなりやってきて、船に穴を空けてやってきて、
黒髪に見慣れたチャイナ福、そしてどこぞの団長のような微笑みを抱えてやってきた。

「ん、あぁ、俺は神羅です。
こいつ、神威の兄です。」

いま俺に気付いたのか、にこやかに自己紹介を始める。
阿伏兎だ、と返すと軽く会釈された。
…団長の兄だと?
先日の吉原の一件で、妹がいることを知ったが、
兄がいたとは知らなかった、ましてや。
こんな馬鹿みたいな野生の殺気を放つすっとこどっこいだなんて。

「改めて、久しぶりだね、神威」
「うん」
「元気だった?
随分と探したんだけど、ほら、春雨って入れ替わり激しいじゃん?
どこにいるのかなーって思ってたんだけどさ。
前に会った時は…何番目の団にいたんだっけ?
ともかく、会えてよかったよ」

一見すれば、おそらく久々の再会を交わした兄弟ではあるが…。

「…吉原の一件、聞いたよ」

しかしその空気はするりと牙を剥いた。

「鳳仙さん、残念だった」
「…夜王鳳仙はもういないよ。吉原も解放されたみたいだし」
「…へぇ。なぁ、神威。そこで神楽に会っただろ?」
「!」

団長の肩が小さく跳ねた。

「…酷い事、言ったんだって?」
「…それはー…。」
「"弱い奴に用はない"、って。その理屈で行くと、」
「!」
「俺もお前に用はねぇよ」

低く、暗く、強い声。
その声だけで、相手の戦意は一瞬で喪失されるだろうと、思わず引き攣った笑みを零した。

「でも、あれは…」
「…俺昔から言ってんだろ?
兄妹喧嘩はすんな、って。ただでさえ規模デカいんだからよ。」

団長が押し黙る。

「…まぁ、神楽も俺に言いつけてくる所まだ幼いさ。可愛いもんだよ」
「…。」
「…確かに言葉は悪いが、別にお前のことだけ怒ってるわけじゃないさ。
そもそも二人の喧嘩に割り込む時点で無粋だ。
だから、」

パァンと乾いた音が1つ。
兄が、団長を叩いたのだ。
突然のことに団長はふらついたが、頬に手を当てて黙っていた。
あの団長が、大人しく兄の平手を受けていた。

「ちなみに、ビンタは神楽にもしてきたからな」
「…喧嘩両成敗ってやつ」
「そーゆーことだ」
「…。」
「よし、じゃあ久しぶりに手合わせでもするか」

途端に兄貴の纏う空気が変わり、団長もいつもの笑みを浮かべて、いつも通りの臨戦態勢だった。
流石にここでバケモノ二人に暴れられては困るので必死に止めたが。


++++++++++++++++++++

「…なーんてこともあったのに今じゃこれだからねぇ」
「? どうかしましたか阿伏兎さん」
「いーや、なんでもねぇよ」
「ねぇ兄さん、ご飯食べ終わったら手合わせしようよ」
「食べてすぐは吐くから無理」

仲睦まじく食事してるもんだから、
この兄弟はよくわからねぇ。



07:過去話とか聞いても反応に困る時ってある。
 

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