兄と弟と妹と

□二度あることは三度あるらしいぞ。
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「だからさー、悪かったって言ってんじゃん」
「悪かったで済んだら警察はいりませんよ」
「…。」

攘夷浪士が警察って…。
あれ、こんなの前もなかったか?
鬼兵隊の船の中、手を後ろに縛られ床に座り込んだ俺が、そこにはいた。隣には風通しのいい壁。

「あなた…噂によればあちらこちらで船に穴を空けているらしいじゃないですか」
「人を穴あけ職人みたいに言わないでくださいよ。
船が脆いのが悪いんですから。あと嫌な噂ですねそれ、即刻どうにかしてください」
「武市先輩!言い方が甘いっすよ!
だからこいつ船来るとき毎回毎回穴空けて帰るんっすよ!」
「そんな怒んないでよまた子ちゃん」
「話しかけないで欲しいっす!」

軽くブロークンハートだわ、なんでこんな嫌われてるんだ俺。

「とりあえず縄取ってくださいよ」
「取って欲しけりゃ修理代置いてけ!」
「そもそもあなた…神羅くん。
縄くらい簡単にちぎれるでしょう。」
「でも捕まってるんだからせめてもの謝りの姿勢ですよ」
「ムカつくっす!なんなんすかこいつ!」
「神羅くんですよ、また子さんも知ってるでしょう」
「そーゆーこといってるんじゃないっすよ!
というか何しに来たんすか!?」
「そこに船があったから顔出しに来たらなんか穴空けちゃった、って話だよ」
「どこの登山家っすかぁあ!?」

うーん、また子ちゃんのツッコミは激しくて面白いなぁ。

「また子さんをからかうのはその辺にしておいて…。」
「ふぅ。高杉います?」
「いますよ」
「はんっ、晋助様なら今自室にいるっす、会わせないっすけどっておいいい!」
「あんがと、じゃっ!」
「縄、ちぎっちゃいましたね」


++++++++++++++++++++


「高杉、いる?」
「いねぇ」
「…いるじゃん」

そんな低レベルな話を交わしてから障子を開ける。

傍らに三味線が置いてあったから弾いてたのかと思った。

「返事してる時点でいるよね」

俺の言葉には答えない。
窓から月を眺める、まるでかぐや姫のような高杉に遠慮なく近づいていく。
かぐや姫なんてガラじゃないけどさ、こいつは。
相変わらず煙管をふかしているからきっと今頃肺が真っ黒だろうなぁ。

「…相変わらず飛んだり跳ねたりしてるみてぇだな」
「まぁぼちぼちとね。
商売繁盛してるし、財布の方も元気だよ」
「…。」

ちらりとこちらをみて、視線を再び月へと向ける高杉
本当にかぐや姫なのでは?なんで

「なんでそんなに月ばっかりみてるのさ」
「…俺が何見ようと俺の自由だろ」
「俺が来てるのに、月の相手か?っつってんの」
「…月には兎がいるらしいからな」
「は?」
「月を見ることと、てめぇを見ることに違いはあるか?」

まーたよくわからんこと言ってるよこの子。たまに何言ってるかわかんないんだよなぁ。
鬼兵隊の人たちは意思疎通出来てんのかなって心配になるレベル。

「兎かぁ」

じっと高杉を全体的に見つめる。
何かに似てるとずっと思ってたけど、

「…あぁ」

神威と背丈が似てんだ、高杉。
神威に会いたくなってきたな。

「…よし、神威んとこ行ってこよ」

立ち上がり、そう宣言すると、高杉か少し呆れたような視線を向けてきた。
ようやく向けられたと思えば呆れた視線で。

「…弟か」
「うん」
「クク…ブラコンは健在か」
「何言ってんだよ高杉、ブラシスコンだよ」
「そうだったな…」

結局俺何しに来たんだろ。
宇宙プラプラしてたら船が会ったから顔を見にきただけなのに。
あ、そういえば万斉に会ってない。

「神羅」
「ん?」

障子に手をかけたとき、声をかけられた。
振り向くと、隻眼の瞳がようやくしっかりと俺を捉える。

「…最近は、どうなんだ」

まるで父さんのようなセリフ。
相手は高杉だから、なんだかそのセリフがアンバランスで、

「別に、なんともないよ」

そう、なんともない。
なにもないのだ。

「…まだ、居ろよ。
俺が世界を壊すまで、まだ…居ろ」
「…随分と傲慢ちきだな」

それだけ返して、部屋を出た。



09:二度あることは三度あるらしいぞ。
 

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