兄と弟と妹と
□他人にしかわからないこともある。
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「お」
「やぁ、沖田くん」
江戸をぷらぷらしているとパトカーに乗った沖田くんに会った。
「なんでぇシスコン兄貴、来てたんですかぃ」
「まーね。
ちょうどよかった、おまわりさん。酢昆布ってどこに売ってる?」
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隣でがさごそと袋を漁る神羅。
「助かったよ、神楽に酢昆布買ってかなきゃいけなくてさ」
「ふーん」
俺よりも幾分か高い身長。
そのおかげで、傘を差していてもこちらから神羅の顔は良く見える。
「…何かあったんですかぃ?」
「へ?」
「…なんか、いつもと雰囲気が違いまさぁ」
「…。」
ぽかん、としていた顔が綻んで優しい笑みが浮かんだ。
(あ、)
俺はこの顔を知っている。
年上から向けられる、優しい笑み。
そして伸びてくる手を、避けようとは思えない。
から、ここは素直に頭を撫でられておく。
この場合、避けると傷つくのは実は手を伸ばしてきた方ではなく、避けたこちらなのだと俺はよーく知っている。経験済みだ。
「大丈夫、別になんともないよ」
そして、この顔もまた。
年上から向けられる、心配させまいとする笑み。
(言いたくないことでもあるんじゃねぇのか…。)
それらを向けられる者は、言葉を浮かべるだけで、口にすることはできない。
きっとこれは姉上にもあって、近藤さんにもあるもの。
でも、わかってねぇや。
(…そんな顔をするから、余計に気になるんでぃ)
それをわかっていて、踏み込めないのは幼さ故なのか。
「またね」と手を振る姿が、どことなく姉上と重なった。
12:他人にしかわからないこともある。