兄と弟と妹と
□喧嘩したあとのご飯は格別美味いらしい。
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「副団長、団長はどちらですか?」
「…あー、団長は今お楽しみ中なんだよ。闘技場でな。」
「闘技場、ですか…。」
理解した団員の一人は顔を引きつらせた。
邪魔したら殺されることは明確だ、なにせ相手は
「…すっとこどっこいの兄貴だからな」
重要書類らしく、団長に渡さなければならない。
青ざめる団員から書類を受け取り、重い足取りで闘技場へ向かった。
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闘技場のドアを開けると神羅が一瞬こちらを見た。
そしてすぐに団長に視線を移す。
「ちょっと待ってね」
「なに兄さん、余所見?」
団長の拳をさばきながら神羅は続けた。
「阿伏兎さん、あと…30秒待ってください」
「へいへい」
言うが早い、神羅は団長の腕を掴んで、地面に叩きつける。
団長が上体を起こしたとき、
「っ…。」
神羅の手は首筋に当てられていた。
逃がさないように、膝は鳩尾に入っている。
タイミングを見計らったかのように、闘技場にブザーが響く。
「…ふぅ、きっかり60分。
これで終わりな」
「…。」
兄貴は団長の上から退いて、軽く頭を撫でていた。
「…拗ねんなよ」
「またやろうね、兄さん」
「…あぁ」
神羅は疲れた溜息を隠すことなく吐く。
兄貴さんよ、俺らはいつもそいつの相手してんだぜ。
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「んー、やっぱり体動かしてから食べるご飯は美味しいネ」
「だなー」
シャワーを貸してもらって、食事にありつく。
至れり尽せりなので阿伏兎さんたちに申し訳ない。
「兄さん今まで地球にいたの?」
「口にもの含んだまま喋るな。ほら、ついてる」
指摘した矢先、まだ口に含んでいるのでもう諦めよう。
「地球にもいたし、各星転々としてたよ」
「ふーん、暇なんだね」
「少なくともお前よりは忙しいけどな!?」
「明日会合があるんだけど、」
無視か。
「シンスケも来るんだ、兄さん久しぶりに会えば?」
「…シンスケって…。」
手が止まる。
知り合いにシンスケなんて数えるほどしかいないが…。
「高杉か?」
「うん」
神威は一段落ついたのか、水を飲んで満足げな息を吐く。。
「春雨と鬼兵隊は手を組んだんだよ」
「…。
…手を組んだからって俺と高杉を会わせよう、なんてらしくないな神威。
どうしたんだよ」
「シンスケに頼まれたんだ。
なんか話したいことがあるみたいだね」
「…そうか」
「それに、らしくないのは兄さんでしょ」
「え?」
「もう食べないの?」
「あー…お腹減ってないんだよな、今」
コトリ。フォークを静かに置いた。
13:喧嘩したあとのご飯は格別美味いらしい。