兄と弟と妹と

□長男長女はいつまでたっても世話焼き。
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あれは2年ほど前のことだった。
俺と神羅は屋形船で、酒を飲んでいた。
珍しく俺も酔っていたのか、
神羅もほろ酔いの様子で、互いにいつもより饒舌で。

「高杉ってほんと撫でやすい頭してるよなー」
「撫でんな」
「弟思い出すサイズなんだよ、触り心地いいしな」

止めても無駄だと諦めて、されるがままで放置。

「人に頭撫でられるってのもいいもんだよ。
嬉しいと思わねぇ?」

腰を下ろして、酒に溺れた瞳が俺を正面から見つめる。

「…餓鬼」
「俺もう20だよ」

にへら、と笑う頬は少し蒸気していた。
酒は弱いのかこいつ。

「こんな年だからこそ、だよ。
高杉だって、頭撫でられることなんかそうそうないだろ?」
「くだらねぇ」
「そーゆーなよ」
「…。」

神羅の頭に手を伸ばす。

軽く、髪を撫でると大袈裟に体を強ばらせた。

「た、かすぎ…?」

嬉しいものか、と問う前に驚愕した。
神羅は、青い瞳を震わせて、泣いたのだ。
俺に頭を撫でられて、驚いて、ふっと力が抜けたその表情は悔しそうで。
ぽろぽろと瞳から零れる涙を拭うことなく、神羅は堰を切ったように、決壊したダムのように涙を溢れさせた。

「神羅…?」

驚きに濡れた俺の声に、ようやく神羅はいつもの調子で涙を拭った。

「なん、でもないから」

大丈夫だから、と俺から離れていく。
痺れを切らして神羅の腕を引く。
先ほどまで涙を浮かべていた青い目が揺らいだ。
腹の底から湧き上がる衝動に、溜まらず神羅の腕を引いてきつく抱きしめる。
ぱたりと徳利は倒れ、俺の足元を濡らしていった。
らしくねぇ。
俺も、コイツも。
俺よりもでかいのに、身を小さくして胸元に額をくっつけた。
そして、小さな声で言ったのだ。
本当に、小さな声で、その言葉を。

「…高杉、俺、まだ…まだ、死にたくねぇよ…」

その時俺は初めて神羅の病気を知った。



15:長男長女はいつまでたっても世話焼き。
 

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