兄と弟と妹と

□家族とはいて嬉しいものであるべきだ。
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俺が自分の病気を知ったのは随分と昔の話である。

母親と同じ病気だった。

そのことを知った時、頭に浮かんだのは神威と神楽。
その時既に父さんと神威は家を出ていたからこそ、不安になった。
俺が死んでしまったら、あの二人はどうなる?
神威と神楽は?
父さんと神威は?
父さんと神楽は?
余計なお節介かもしれないけど、それでも
俺はまだ生きなければ。

「…まだ、死ねない」

死ぬのは構わない。
母さんと同じ病気なのもきっと運命だ。
だから、受け入れよう。
でもまだ死ねない。
まだ死ぬわけにはいかない。

『不器用な人だよ、ほんと。似るんじゃないよ、そんなとこ』

母さんが、最期に俺に言ったこと。

『神威は、素直じゃないけど。
あの子、怪我をしたら私の前では隠すんだ。そんなところが可愛くて堪らなくてね』

ふふ、と穏やかに笑みを浮かべる、記憶の中の母さん。
そうだね、神威は素直じゃないだけだよ。
根は優しいんだから。

『神楽はきっとたくましくなる。
いまはまだ、幼いけれど。
あの子はきっと、私たち家族を繋いでくれる』

母さんも神楽もたくましいよ。
神楽は泣き虫が早くなおるといいな。

『神羅、は…。』

ああ、思い出せない。

母さん――――

「…夢か。」

頬が濡れていた。
懐かしい夢を見たものだ。
わかってる、わかってるよ。
俺はまだ死ねない。
死ねないけど…。
時間は待ってくれないから。
だから、俺が生きている限りは。
この家で、待ち続けるよ。



16:家族とはいて嬉しいものであるべきだ。
 

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