兄と弟と妹と

□王様の耳はロバの耳
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「春雨がなにか動いてるんだ」
「・・・。」
「・・・だから何だ、ってわけじゃないけど・・・。
銀時。・・・神楽のこと、守らなくていいから、見ていてくれよ」

年に似合わないくらいの哀愁と、悲愴を漂わせた笑みを、俺に向けた。
神羅は焼酎の入ったコップに口をつけ、目を細める。
突然万事屋にきて、「飲みに行くぞ」と馬鹿力で引っ張られたと思えば。
・・・そんな顔して頼み事なんてすんじゃねーよ。

「・・・えらく勝手なシスコンだな」
「ブラコンもつけといてくれよ。
・・・俺じゃ、神楽のこと見ていてやれないからさ。
ほら、俺いつも地球にいるわけじゃねーしさ」

「仕事のこともあるしな」と神羅は加えた。
それでもなんで急にそんな話をしてきたのか。
神羅は続ける。

「あいつが迷わないよう、傍にいてくれよ」
「んなこたぁ兄貴のてめぇがやればいいだろーが。
他力本願とは随分薄情じゃねーの」
「・・・頼むよ、銀時」

困ったように笑う。

「…神羅、お前…。
…何かあったのか?」
「ん、いや、何もないんだけどな。
酔ってんのかもな」

あはは、と空元気で笑う神羅は空になったコップを煽る。

「…危なかっしい顔してんじゃねぇよ」

ただ酔っているだけなら、それでもいい。
杞憂で終わるなら、大袈裟だって笑えばいい。
・・・でも。

「神羅。
お前、何隠してんだ」
「隠してなんかないよ」

コップを持つ手に力が入った。
やっぱり、こいつ

「なんか隠して、」
「銀時には関係ねぇよ。
…それ以上何か言ったら、容赦なく殴る」
「…。」
「酔ってるだけだよ。
変なこと口走って悪かったな」

立ち上がり、「親父、勘定」とその場を去ろうとする。

「…おいおい随分勝手じゃねーか。反抗期か?」

そんな意味深な発言したまま、帰さねぇよ。

逃がさないように神羅の腕を掴んで、ギョッとした。

「っ、離せよ銀時」
「神羅、お前なに焦ってんだ?」

神羅の顔は一瞬悲痛に歪む。
そして鋭い目で俺に「離せ!」と怒気を孕んだ声で叫んだ時

「!
っぅ、は、うぁはぁあっ、」
「!」

苦しそうに胸を抑え、膝をつく神羅。

「おい、神羅!おい!」
「うぅう、ぐぅっ、う、っ・・・!」

俺の胸に倒れ込んで、肩で息をするこいつの背に触れたとき、驚きは恐怖へと変わった。
そのまま気を失った神羅。
お前、なにを隠してんだよ。
話したくないならいいけどよ。
そんな痩せ細った体しといて、何も言わねぇのは狡いだろ。



17:王様の耳はロバの耳
 

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