兄と弟と妹と

□名乗るほどの者ではありませんなんて言う機会ない。
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「あ ごめーん傘ひらいたら飛べると思ったんだけど、
やっぱり無理だった」

間の抜けたような神威の声。

「オイ
どこのチンピラシータだてめェ」
「そんな顔でみないでよ。
アンタの同類さ」

沖田くんと神威が向き合う。
確かに、この2人はどことなく似ている気がしなくもないが…。

「! シスコン兄貴、なんでこんなとこにいやがるんでぃ」
「ん、まぁいろいろあってね」
「あれ、ほんとだ兄さん。
なんで降りてきたの?あいつは俺の獲物だよ?」
「別に沖田くんと戦いに来たわけじゃないよ」
「…ってことはそっちのチンピラシータはやる気あるってことですかぃ」
「さぁね。
とりあえず俺は俺のしたいようにさせてもらう」

沖田くんの背にいるそよ姫とやらに目を向ける。
咄嗟に背で隠した沖田くんに歩いて近づく。少し警戒されてるようだ。

「関与しないんじゃなかったのー?」
「気が変わった。
イレギュラーが欲しいんだろ?
俺は俺の意思で動かせてもらうよ」
「ふーん」

にんまりと笑って神威は掃除を始めた。
大方やりあうのに周りの忍やらなんやらが邪魔なんだろうか。
素早くそよ姫の背後に回り込み、首に手刀をいれ、力なく倒れる姫さんを抱きとめる。

…まだ神楽と同い年くらいだろうに。

「何しやがんでい、」
「大丈夫、傷つけないから。
それに沖田くん、俺に構う暇ないんじゃない?」
「!」
「よし、掃除完了。
これで心置きなく闘り合えるってもんだ」

まだ何か言いたげだったけれど、沖田くんは神威に向き直った。
…止めないと神威、沖田くん殺しちゃうかな。
沖田くんもなかなか腕が立つらしいけど…。
とりあえず、姫さんを安全な場所へと運ぶか。

++++++++++++++++

船の中を走り回って行くと姫様、と叫ぶ声が聞こえた。
曲がり角を曲がると両腕のないおじいさん。
家臣…老中か?

「姫様!」
「あ、姫さんのお知り合いですか?
あーよかった。流石にこのまま徘徊するわけにはいかないから」
「あ、あなたは!」
「俺のことは話すと長くなるので、とりあえず姫さんを安全な場所に移動させたいんですけど」
「は、はい!早くお逃げくださいあちこちで誘爆が…
避難艇で脱出を…!」
「運びます、先導を」
「はい、こちらでございます!」

おじいさんの後を追う。
横に並んで今の状況を知ろうと聞いてみたが、どうやらイレギュラーなことばかりらしい。
戦況把握は難しいだろうか。
いや、戦いたいわけではないけれど。

「助かります、私だけでは姫様をお守りできませんでしたから…。」
「あぁ、いえ守ってたのは沖田くんですよ。
俺はかっさらってきただけで…。」
「あなたは一体…。」
「ただのイレギュラーですよ」



22:名乗るほどではありませんなんて言う機会ない。
 

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