兄と弟と妹と

□口で十回唱えれば叶うんだろう。
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雨は止まない。
いくらか強くなった気もする、体温が下がっていくのを感じていた。

「…ちっ、」

神威の拳を片手で受け止め、壁にぶん投げる。
そのまま鳩尾に膝蹴りをくらわした。
振り返りざまに父さんの蹴りを右手でカバーするも、耐えきれず吹き飛ばされた。
そのまま力に逆らうことなく俺の体は地面に激突した。くそ、右腕ヒビ入ったかな。
すぐに立ち上がると今度は神威の足が飛んできたので今度はきれいにかわす。
親殺しの邪魔されて気が立ってんのか知らねぇけど、

「そんな鈍い蹴りが当たるかよっ!」

神威の胴に突きをくらわしてから、父さんの元へと走る。
先に止めるべきは神威よりも父さんだろう。神威ならあとでいくらでも止められる。
真正面から拳を繰り出すも流石というべきか、父さんはきれいに避けていく

「くっそ…!」

隙をついて背後に周り首筋めがけて手刀を振り上げたら気付かれた。
こちらに体を向けた父さんに対し、体制を立て直そうと一瞬踏みとどまったら背中に衝撃。
神威の蹴りか。
父さんの胸板にぶち当たったのをいいことに、顎を目掛けて砕かない程度に突き上げた。痛そうだな。
父さんから距離をとって息を吐き出す。

「邪魔しないでよ、神羅兄さん」
「神威…。」

神妙な面持ちで近づいてくる神威から一定の距離を保つ。
…なんだよ、その目。
何かを決意した瞳で、神威は俺に狙いを定める。
その時、背中からすごい殺気を感じて振り向いた。

「っ…!」

わかってる、わかってるんだよ。
親殺しをした神威を止めるために俺は仲裁に入ったのに、俺は父さんも止めようとしている。
父さんはきっと、神威を殺そうとしていた。
そして、あのまま殴り合い蹴り合いを続けていれば、きっと俺も殺そうとしただろう。
我が子を、手を掛けようとしていたなんて気付いてたさ。だから止めたかった。
それなのに、

「…なんで、そんな目をしてんだよ。」

ああ、神威まで。
なんで、そんな目で

「っ…家族じゃねぇのかよ!!!」

家族だからだと、俺が思えるようになるには、まだ俺は幼かった。

+++++++++++++

しばらく気を失っていたようで、気が付くと地面に突っ伏していた。
雨はまだ降っていた。
体の所々が痛い。
ゆっくりと顔を上げれば、神威も地面に倒れていた。
辺りを見ると、

「…!」

父さんの足に、必死にしがみつく神楽。
怯えているのか、顔が青い。
帰れと言ったのに、どうして戻ったきたんだ。
父さんはどこか呆然としたような、酷く悲しい顔をしていた。

どうして、こんなことになってんだよ。
夜兎の宿命?血の運命?
そんなの、

「っ…家族でありたいと願うことは、
そんなに難しいことなのかよ…。」

雨は、まだ止まない



24:口で十回唱えれば叶うんだろう。
 

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