兄と弟と妹と

□そうは問屋がおろさないの問屋ってどこ。
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「…隠してること?」

震えるな 声

「俺が、お前らにか」

崩れるな 表情

「…神羅兄ちゃん、隠さないでヨ」

神楽はいつの間にか立ち上がっており、俺の方を見据えていた。
ああ、そうしてるとやっぱり神威にそっくりだ。
お前らは母さん似だからなぁ、俺は父さん似だから、将来頭が心配で心配で。

「…俺達が気づかないと思った?」
「前に地球で倒れて、銀ちゃんに運ばれた時もそうだったんでショ…?」

『んだよガキはもうねる時間だろ。』

『…兄ちゃん。
ねぇ銀ちゃん、神羅兄ちゃん、病気なんでしょ?何で隠すノ…?』


あの時から…
いや、もっと前なのかもしれない。

「最近、兄さん少しずつ食欲落ちてるんじゃない?
それに、力も」

気付かれていた。
今の俺は、以前のような食欲も無ければ、せいぜい神威が暴れたのを止めるので精一杯なレベルだ。
少し前なら手刀一つで落とせていたのに。

「兄ちゃん、時々すごい辛そうな顔するアル。
なんで話してくれないノ…。」

神楽の声は震えていた。
違うんだ、そんな顔をさせたかったわけじゃない。
違う、
『俺の病気をきっかけに2人の仲を戻したくない』なんて
その気持ちは嘘じゃない。
でも、最愛の弟妹に嘘をついた理由としては足りない。
俺は、

「…かっこいい兄でいたかった、」

口が動いていた。
遠くでカラスの鳴く声がする。

「兄として、2人の喧嘩を止められて、
2人をめいいっぱい甘やかして、愛して
…2人の、神威と神楽の憧れでいたかったんだ」

なんて情けない感情。
近くの木にもたれかかり、掌で額を抑えた。
スラスラと、今まで言えなかった言葉は俺の口を流れていく。

「神楽の言った通り、俺はある病を患っている。
母さんと同じ病気で…余命いくばくもないそうだ」

途端に見開かれる2人の瞳。
…血を吐く姿なんて見せたくなかった。
動機が苦しくなって、そのまま気絶する姿なんて見せたくなかった。
そんな俺の小さな虚勢が、2人の心に影を落としてたんだな。

「…黙ってて、ごめんな」

頬を涙が伝う。
情けない。
こんな情けない姿を見せたことなんてなかった。

「…兄ちゃんは、かっこいいアル!
例え病気だったとしても、そんなの関係ないネ!!
兄ちゃんのご飯すごく美味しいアル。
兄ちゃんが頭撫でてくれると嬉しいし、それに、それに。
兄ちゃんは私の自慢の兄ちゃんダヨ!!!
だから、」

額に当てていた手を取られて、顔を上げる。

「だから…、
死なないでヨ…神羅兄ちゃぁん…。」

ひどく弱々しい声で、涙で顔をくしゃくしゃにしながら神楽は俺にそう言った。
俺の手を握る神楽の手に力が入る。
女の子がそんな顔して鼻たらして、ああもう

「…兄さんは、俺が殺すから。
だから、その前に死ぬなんて許さないよ」
「神威…。」
「…死なないでよ、兄さん。
兄さんはいつだって強くて、俺の超えるべき壁?なんだからさ。
俺が倒すから」

こんなにも想われて、どうして俺は何も伝えずに、くだらない自尊心のために2人を傷つけたのだろう。
どうして俺は、『悔いはない』だなんて言えたのだろう。
俺は、

「っ…生きたい…」

お前らと、そしてあいつと

「生きていてぇよ…!」




29:そうは問屋がおろさないの問屋ってどこ。
 

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