兄と弟と妹と

□●秘密を抱えるにはあまりにも
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あれは、将軍暗殺決行の半年位前のこと。

「また子、すまぬがこれを神羅の部屋に届けてくれぬか?」

先刻、万斉先輩にそう言われて水を持ち、あいつの部屋に向かう。
時刻は22時くらい。おそらく神羅は寝てるだろうと万斉先輩は言った。

「全く、なんでよりによって…!」

私は正直神羅が好きではない。
晋助様に気に入られているからっていうのもあるけど、それよりも

『なーんかきな臭いんっすよねぇ』

『何がでござるか?』

『神羅っすよ。
夜兎族だし、腕が立つのは認めるっす。
でも、どこか胡散臭いんっすよ。
何か隠してるっていうか…。』

『…確かに、神羅は掴みどころのない音を奏でる男でござる』

神羅は時に晋助様の友として、時になんでも屋として鬼兵隊にやってくる。
人当たりがよく、面倒見もよいため鬼兵隊の中には神羅を慕うやつだっている。
しかし、私はどうしても神羅を好きになれなかった。
へらへら笑って、そのくせ不意に酷く苦しい顔をして晋助様と話している。
その時の晋助様も、今まで私たちが見たこともないような顔をする。
…確かに神羅は鬼兵隊の仲間というわけではないけれど、それでも…。

「…にしても。水くらい別に届ける必要があるんすか…?」

先ほど知ったことだが、神羅が鬼兵隊に泊まる時は就寝時、必ず水が置いてあるそうだ。
夜に喉が乾くとか、そんな理由だろう。
水を置くと景気がよくなるとか、怪しいことを言い出したら船から追い出してやる。

「神羅、水持ってきたっすよー」

部屋の前で呼んでみる。
しかし、返事がない。

「…神羅?」

障子が少し空いている。
そこから聞こえるのは、おそらく神羅の咳き込む声。

「――がはっ、はっ、うぁ、」

むせたとか、そんな程度ではない。
尋常じゃないと察し、水なんて放って障子を開く。

「!」

部屋の灯りは着いていなくて、廊下の窓から差し込む月明かりが私の背中から照らしている。

布団の上で、血を吐く神羅を。

その光景を見て、言葉を失う私に気付き、神羅は少し驚いたようだった。

「はっ、ぁ、…また、子ちゃんか…」

なんで、

「っ…なんで、そんな状況で!」

苦しそうに、血を吐きながら。
油汗を浮かべ、布団に爪を立てながら。
それでも、神羅は笑顔を作ろうとする。
全てをひた隠すかのように。

「なんでそんな状況で笑ってられるんすか!」



秘密を抱えるにはあまりにも

(私は彼を好きすぎていた)
 

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