兄と弟と妹と

□野良猫に餌やる不良を見たことがあるか?
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体が動かない。
天導衆を追っ払い、もう指先ひとつも動かせぬ体は地に倒れる。
神楽たちともちゃんと話すと約束までしたのに。
俺はこんなところで死ぬのか。
死にたくない。
俺は、もう、「悔いはない」なんて言わない。
しっかりと家族と向き合う、向き合わないと。
そう思うのに、しかし体は疲労が増す一方で。
地面に倒れ込む俺をあざ笑うかのように太陽は照りつける。
このままでは、鳳仙さんのように干からびて死んでしまう。
あいつらにも、
…あいつにも何も伝えられないまま、

嫌だ、俺は
俺はまだ

「こんなところで何をしているのですか」

頭上から降ってきた声。
誰だ、あんた。
首すら動かせなくて、うつぶせの俺には声しか聞こえない。

「アルタナの加護が遺伝するなんて事例、初めて見ました」

どこか気の抜けるような毒気が抜かれるような、穏やかな口調でそいつは続けた。

「君は生きるべきです。
守りたいものがあるのでしょう」

そう言うとそいつはしゃがみこみ、俺の体を仰向けにする。
そして力強く顎を掴んだ。

「がっ…!」

口に何かを流し込み飲まされる。
これは、…血?
いや俺一応人間なんだけど…狂王とか言われてても吸血鬼とかじゃないから…。
時折咳き込みながらも、喉を流れていくそれを逆らうことなく飲み下す。

「…私の力では君を救うことは出来ません。
寧ろその逆…になるでしょうが、今の反応を見る限りこれで当分はいいでしょう」

男は薄く開いている俺の目に手を被せて、瞼を下ろさせる。

「さぁ、しばらく休みなさい。
その儚い命をどう扱うか…私もヤキが回ったものです。
まるで、あの男のように…。」

指の隙間から見えたそいつは、まるで烏のように黒い衣服を纏い
静かに俺を見下ろしていた。
誰だ、あんた。

この一連の行動が、俺の死期を早めるなんて。
微塵も思わぬ、空っぽな頭で俺は意識を手放した。



32:野良猫に餌をやる不良を見たことがあるか?
 

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