兄と弟と妹と

□怒らないから言ってごらんは大抵嘘
1ページ/1ページ


右頬が痛い。
前を見ればえらくご立腹な父さんがいて、その後に呆れた様子の阿伏兎さんらがいた。
そうか、ここは洛陽かと知れたのは悲しいかな慣れ親しんだ陰気くささからか。
目覚めた直後に体を吹っ飛ばされて正直体中は痛いが、
それよりも殴られた右頬がえらく痛かった。

「…神羅、お前」
「…。」
「知ってたんだな…?」
「…。」

答えない。
父さんは確信のように問うてくるが、どこか、嘘であってくれと願うような色が見えた。

「母さんのアルタナの加護が遺伝していたと、知っていたんだな」
「…あぁ」
「っ……!
ならなんで言わなかった!知ってたら……知っていたら……!」

悔しそうに声を荒らげる父さん。
その様子をどこか他人事のように見ている俺がいた。

「…俺が遺伝を知ったのはずいぶんと前だった」
「!」
「別によかったんだ。
死にたかったわけじゃないが、それでも。
母さんと同じ、アルタナの加護が原因とするなら俺はもう助からない。
そう知った時、嬉しいとは思わなかったが、悲観することはなかったんだ」
「何を…」
「やりたいことがあったから。やるべきことがあったから」

痛む右頬を抑えながら立ち上がる。
近くにあった俺の服に袖を通した。いつも通りダブダブで余った袖。

「俺はそれさえやりきれれば、もう何も心残りなんてなかったんだよ」

髪を結って、伏せていた目を上げる。

「それが黙っていたことの理由にはならねェ」

もっともだ。
依然父さんの怒りはおさまらないようで。
確かに神威や神楽にはひた隠しにしていたが、父さんには意図的ではないとはいえ言わなかった。

「父さん。多分俺、」

父さんには、

(気付いて欲しかったんだ)

その言葉を口にする直前に響いた轟音。
その話は後だと阿伏兎さんに襟首をひっつかまれて俺らは外に出た。
何が起こってんだ一体。



35:怒らないから言ってごらんは大抵嘘
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ