兄と弟と妹と

□臨機応変と無茶振りは表裏一体
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「春雨が天導衆と手を組んだ?」

爆撃から逃げる中、父さんは簡潔に状況を説明してくれた。

「それならなぜ阿伏兎さん達まで攻撃されてるんだ」

それに、後ろで鬼兵隊の兵隊に抱えられている高杉も一体どうしたんだ。
わからないことが多すぎる。

「俺達第七師団は春雨から切り離されたんだよ」
「は?」

阿伏兎さんが答えてくれた。
しかも聞けば、高杉ら鬼兵隊も神威たちと同じく追われているらしい。
地球の将軍や元老院らの裏切りが原因らしいが、

「…なんだよそれ」

手のひら返しか。
胸の中にある黒い感情に悶々としていたら父さんが足を止めた。

「神羅、これを肌身離さず持ってろ」

渡されたのは結晶石のついたペンダント。

「父さん、これ…」
「母ちゃんの星のアルタナで作られたもんだ。
回復には繋がらねぇが…、…少しはマシになる。
それつけてお前は逃げろ」
「は…?」
「俺らが敵を引きつける。
2手に別れてそいつも守りながら逃げろ」

そいつとは、高杉のことだろうか。

「待てよ父さん、俺だって、俺だって戦える!」

俺の言葉を無視して父さんは踵を返した。
そしてそのまま走り出す。
後を追おうと動いた瞬間、阿伏兎さんに肩を掴まれた。

「っ、なんでですか!
神威が狙われてるのに、俺が逃げるわけには、」

一瞬阿伏兎さんは眉を寄せて、いつもの調子で続けた

「このすっとこどっこい。
お前の体に何が起きてるかはよくわからねぇが、
まともに戦えないお前が戦場にいても役に立たねぇよ、馬鹿兄貴」
「!」

そのまま阿伏兎さんも走り去った。

「神羅さん!!今のうちに!!」

急かす声が聞こえて、走った。
阿伏兎さんが言ったこと
それはよくわかる。
まともに戦えないならただのお荷物だ。
それでも、それでも…

「っ……!」

悔しかった。

崖を走り抜けながら後ろを振り返る。
阿伏兎さん達が引き付けてくれているから、追手はまだまだ来ない。

「急げェェ!
阿伏兎殿が敵を引き付けている間に!!

しかし砲撃が迫る。
周囲を見渡せば、皆疲労の色がありありと見えて。
流石に大の男を抱えて逃げるのは骨が折れるようで、逃げる足が遅くなる。
せめて俺ならまだ動けると、交代を申し出て高杉を横抱きにしたその時。
ドォンンと足場の崖に砲撃があたる。
その衝撃でバランスを崩して、高杉は俺の腕から離れて崖へと放り出される。

「ぁ、」

手を伸ばした。
高杉、高杉

「総督ぅぅぅ!」
「神羅さん!」

後ろで誰かが呼んでいた。
気づいた時には俺も崖から飛び降りていた。



36:臨機応変と無茶振りは表裏一体
 

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