夢ヲ見テイタ

□Chapter. 5
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「蔵馬。コエンマから指令だ。」

あれから数日後のこと。
飛影がコエンマから俺に指令を伝えに来た。

「なんですか?」

家のベランダの窓から飛影が土足で侵入する。
彼は紙を取り出して俺の手元に差し出す。

「…これは……」

「?」

内容はこうだった。

“山田の事だが、一旦手を引いてくれないか。少し、彼女の素性をもう少し調べる必要があるから、その間は引いてくれ。”

どういう事か、納得がいかなかった。

「どういう事ですか?」

「知るか。俺はなにも知らない。」

こんなの、理解できない。


確かに、俺は霊界探偵と彼女に称しているが、本当は霊界探偵ではない。

でも……


「そんなにあの女が気に入ってるのか。」

「!!」

飛影が俺の姿を見かねてそう言った。

「人間に情を注ぐとは、俺には全く理解できん。」

「そっ、そういう意味では…!」

「フン。いつものように冷静になれないほど、あの人間に惹かれているようだな。せいぜい自分の立場が何なのか理解するんだな。」

飛影の言葉で少し冷静になった。
どうしてこんなに興奮してしまったんだろう。

「すまない。コエンマには俺から直接返事をするので、飛影は帰ってもいいですよ。」

俺がそう言うと、飛影は再びベランダの窓からどこかへ行ってしまった。
安心したのか、思わずため息が漏れる。

「霊界に行きますか…」

体を奮い立たせ、俺は家から出ていくと霊界に向かった。

「おぉ、蔵馬。どうした?」

相変わらずデスクから顔が見えなくて、幼い園児のような声で俺を出向かうコエンマ。

「理解しました、指令の内容は。しかし、納得はしていません。」

俺は指令書をコエンマのデスクに叩き出して、はっきり言った。

「うーん…。まぁ、予想はしていたがな。しかし、ここから先はいくらお前でも話すわけにはいかん。これは霊界の仕事だ。少しの間だけだ。我慢しろ。」

「理由を聞かなければ納得しません。確かに、彼女の前では霊界探偵を装い、それとなくあなたの指示に従いました。でも…それでも俺は…!」

そういいかけると、俺は拳を握り締めてグッとこらえた。
コエンマの後ろにいたジョルジュがコエンマの後ろから何かささやく。
あいにく、「コエンマ様、ここは理由を言った方が良いんじゃないんですか?」とでも訊ねたんだろう。

だがコエンマは喉を震わせながら唸るばかりで、言葉にはしなかった。

「仕方ない。その代わり、他言するでないぞ。」


コエンマが俺にそう言うと、頷いた。



「彼女は、恐らく……」




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霊界から人間界に帰ってくると、俺は納得しつつ少し驚きを隠せない…そんな心境だった。
そんなせいか、ふだんは立ち寄らないコンビニでコーヒーを一つ買った。

自分であんなにしつこく聞いてなんだけど、変な心情になってしまう。

「ん?よお、蔵馬。今回は一人か。最近よく会うな!」

「幽助…」

「?どうしたんだ??」

幽助に肩を組まれたまま、俺は視線を逸らす。
今は、誰とも話したくない気分だったからだ。

「…まさかあれか?姉ちゃんと関わるな〜って言われてショックで仕方がないってやつか?かぁ〜っ!妬けるね、照れるね、青春だね〜っ!」

「……悪い、幽助。今は…とてもそんな気分じゃないんだ。また…今度…。」

「あぁっ、おい、蔵馬っ!!」

俺は缶コーヒーを口に含ませながら帰路につく。


「はぁ…何でだろうなぁ…。どうしてこんなに彼女に溺れていくんだろう…。」

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