夢ヲ見テイタ
□Chapter. 9
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“ねぇ、花子。私もう我慢できない!今日だけでいいから出してくれる?”
Dちゃんが私に頼んでくる。
私は、Dちゃんが暴走しないように、ずっと謹慎処分を出していた。
さすがに、これでは可哀想かな…とは思った。
「暴走しないって約束するなら良いわよ。」
“待てよ!こいつを出したら、絶対南野とやる気だぜ!俺は反対だ!”
Bちゃんが反対する。
確かに迷うのも無理はない。
「…いい?やろうとしたら、すぐに私が出ていくから。分かった?」
“分かったわ!ありがとう!”
Dちゃんが嬉しそうに言うと、まぶたを閉じる。
「…ふぅ。久しぶりに外を見れた気がするわ。」
Dちゃんはそういって制服を着ると、学校に向かう。
その途中で、南野秀一と出くわした。
ここからが問題。
…と、思ったら、南野秀一は私と視線を合わせたのに、プイッと見て見ぬふりをしてそのまま歩き出す。
慌ててDちゃんが追いかける。
「ちょっと、秀一くん…よね?いつも挨拶してくるのに、その態度は何?」
南野秀一は、私が今までに出したことのない人格だと感じたのか、Dちゃんを見る。
「君は…?」
「んふ。花子から聞いてない?Dちゃんは男好きだって。」
南野秀一はそれを聞くと、一気に距離を取った。
「なんでそんなに嫌がるのよ。今日はこうやって出てこれたけど、これでもまだ縛られてるのよ。えっちしちゃダメって。だから、襲わないから安心して。」
「……………。」
南野秀一は黙ったまま学校に向かう。
なぜ、そこまで南野秀一が煙たがってるのか分からないけど、女が出来たんじゃ…って思っていたけど、よくよく考えたら、もしかしたら霊界のコエンマさんから何か言われたのかもしれないと、自己解釈した。
それは、あくまで主人格の私が思うのであって、他の人格たちは、別にそんなこと思っていない。
「別に良いのよ?あなたが私をどんな風に思っていても。だって、私もあなたに対して特別な感情を抱いていないから…。って、これ、いつも花子がワタシの中で言ってるわ。あの子は人と話すのが嫌いで、湿っぽい陰気な性格だし、その上意味のない意地を張るでしょ?…可愛くないわよね。」
Dちゃんが言いたい放題に言う。
南野秀一は表情1つ変えないまま、それとなく聞いていた。
「でも、だから多重人格になったのよ?淋しいから始まった人格。自分にはなし得ない、反対の人格を作ろうとしたのよ。その結果、一番最初にできたのが、Bちゃんって言う自称男の子。…言いたいこと分かる?」
Dちゃんが南野秀一を見ながら話すが、無反応。
「はぁ…そう。分かったわ。じゃあね。」
諦めてため息をついたあと、Dちゃんは南野秀一よりずっと前を歩いていく。
“少し、しゃべりすぎだよ。”
私がDちゃんに警告を促す。
「ごめん、ごめん。でも、えっちするよりマシでしょ?」
Dちゃんが笑いながら言った。
私は、何も言えずため息。
すると、空に小さい黒い点が見えた。
次第に、私の視力で見える大きさになると、頭で理解できた。
“アレって…この前家にいた妖怪じゃない?”
Eちゃんが私に言った。
すると、Dちゃんも思い出したかのように言う。
「あぁ。そう言えば、やけに花子に積極的だったあの…。」
“感心している場合じゃないわ。今すぐにでもいいから逃げなさい!早く電車の中に入るとか…!”
主人格の私は慌てる。
もう家に戻れる距離ではないし、かといってここで会えば結婚を迫られるし、その前にDちゃんが何をしだすかわからない。
「電車はあと1分しないと来ないわよ。」
“じゃあ駅の待合室に入って。”
「らしくないわよ。トイレでいいじゃない。」
いつも冷静な私が、逆にDちゃんが私をなだめる。
“個室だと、見付かったとき逃げ場が無くなるからよ。いいから言うこと聞いて。”
私は落ち着いてその場の状況を判断して、なんとか陣を巻こうと、まさにかくれんぼが始まった。
「はいはい。」
Dちゃんは早歩きで待合室に入って座る。
陣は空の上で私を探す。
「おっ!蔵馬!やつに聞くべ!」
陣は急降下して南野秀一の元へ降りていく。
ここで一安心だ。
もし南野秀一と歩いていたら、今ごろ不味かった。
「蔵馬!花子はどうしたべ!」
「陣…!どうにもこうにも、学校ですよ。」
南野秀一が当たり前のように言う。
「いいか、蔵馬!花子はおらがもらうべ!」