夢ヲ見テイタ

□Chapter. 4
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「私…ッ!死んじゃうかもしんない…ッ!」


苦しそうに、南野秀一の腕の中でそう言う。

「…どう言うことですか?」

「殺される…!どうしたら良いの?誰も…私を止めてくれない…!」

頭の中でパニックになる。

自分でやっとあの悪夢の意味が理解出来たから、余計混乱してしまう。

「落ち着いてください!」

南野秀一が叫ぶと、やっとその声が届いて私の混乱が止まる。
息切れが激しい。

「…ごめんなさい。…少し、落ち着くわ。」

私は南野秀一の腕を払い除けて、部屋を出ていった。
コップにお茶を注いで、渇いた喉を潤す。

悪夢は、現実にしてはいけない。



食い止めなきゃ。


“大丈夫…?苦しそう…。”

Cちゃんが心配する。

「…少し、疲れてるのかしら。」

“チッ。やっぱあの男のせいか!花子にベタベタとしつこく…!”

Bちゃんが南野秀一への嫌悪感が増幅した。

「違うわ。南野秀一は平気。ちょっと…出掛けようかな。」

“そんなんで平気なのか?南野も連れていくんだろ?”

Dちゃんも心配そうにする。

「平気よ。たまには気分転換もした方が良いのかもね。着替えてこなくちゃ。」

私は再び部屋に向かう。
南野秀一もまた、心配そうにして私を見る。

「…出掛けるわよ。」

「いきなりなんですか?」

「準備するから、部屋から出て。どこに行くの?」

南野秀一がさっき断ったお出掛けを突然鵜呑みにしたから、誘った本人が驚いている。

「…映画はどうですか?」

「良いわね。」

そう言うと、南野秀一は少し嬉しかったのか微笑んで部屋から出ていった。
私は洋服を選んで、髪の毛を整える。
唇には無香料のリップクリームを塗って、今時の高校生にしては色気をあまり飾らない方だった。

眉毛を剃ったり、お化粧してみたり、髪の毛染めてみたり、そんなことは一切しない。

肌が荒れるし、髪の毛が傷むし。

私は細いデニムに、半袖の上からパーカーを着て、長い髪の毛をキャップに入れて被った。

基本的にボーイッシュな洋服やカジュアルな洋服しか着ない。

「行くよ。」

私が声をかけると南野秀一が来た。

「随分女の子の割りには質素ですね。」

「カワイイ洋服を見るだけで蕁麻疹が出そうなのに、着るなんてごめんよ。カワイイ洋服着てほしかった?」

「いいえ、君らしくて良いんじゃないですか?」

スタスタと歩いていくと、またしても面倒くさい人物が現れた。


「あっ!またお前らか!」


「浦飯幽助…」

私はため息混じりに言った。

「なんだよ、これからデートか?姉ちゃん?」

ニヤニヤしながら私をからかう。

「そんなチャラチャラした関係じゃないわ。南野秀一は、ただの護衛なんだから。」

「だとよ。残念だな、くら…じゃなくて秀一くん!」

…前々から気になっていたんだが、くら…じゃなくて。っていう下り多くないか?

南野秀一は咳払いして浦飯幽助に訊ねる。

「別にどうも思わないさ。…そう言えば、飛影はどうしてますか?」

「さぁな。飛影になんか用でもあったのか?」

「いいえ、知らなければ大丈夫です。」

話が済んだようなので、私は歩き出す。
南野秀一は私を追いかけて走った。

「じゃあ幽助!また今度!」

「あぁ、おう…。」

駅の方に向かうと、しばらく会話のなかった私たちの口からやっと言葉が出た。

「あそこの映画館で良いのよね?」

「えぇ。近い方が良いですし。何が観たいですか?」

別になんでもいいんだけど…。

「任せる。」

そういって、映画館のある建物の中に入る。
南野秀一が映画館のチケットを買ってきてくれるので、その間に私は飲み物を買ってくる。

「お茶だけど、いい?」

「良いですよ。行きましょうか。」

とてもじゃないけど、年頃の男女とは思えない。
周りにいるカップルなんかと体も心も距離が離れていて、青春ど真ん中というオーラを感じない。

まぁ、カップルじゃないし。


好きでもないし。


「…これ、日曜日にやってる子ども向けのアニメじゃない。」

スクリーンのある入り口に向かうと、私たちが見る映画のタイトルが出てきた。

「そうですよ。君が毎週見ているようだったので、その映画ver.を見ようと思ってこれにしました。」

入ると、そこにはやはり子どもがウジャウジャ。

私たち二人だけ身長が飛び抜けていて、正直恥ずかしかった。

「ばっ…バカなんじゃないの?!暇潰しに観てたあんなアニメを真に受けていたの?」

私がそう言うと、南野秀一は笑った。

「別に真に受けていた訳ではないですよ。ただ、こう言う子ども向けに作られたアニメ映画は、時折僕たちのような大人を驚かすくらい純粋なんですよ。」

「何を言ってるのよ。私たちなんか、大人だなんて呼べないわ。子どもとも言えないけど。」

私はそう言いながら、チケットに表記されている座席番号に座った。
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