夢ヲ見テイタ

□Chapter. 4
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『ガッハハハハハッ!こいつはこのオレサマが頂いたぜ!!』


『キャアッ!ハイパーマン!!』


『ルシーナ!大丈夫だ、今この正義のヒーロー、ハイパーマンが助けるからな!』


子どもに大人気のヒーローアニメは世代を問わず人気のようだ。
子ども向けのため、一時間しかないのだが、それでも話はありがちな流れで良くも悪くもなかった。

悪者に捕らわれた美人なヒロインを助ける正義のヒーロー。

こんなヤツがいたら、今ごろ世の中安定してるっつーの。

『ハハハハハハハッ!命乞いをすれば、この女を助けてやってもいいぞ。』

『わたしに構わず、モンスターをやっつけて!』

『ええい!小癪な女だ!』

悪者がヒロインのルシーナに微弱な電撃を流し込み、痛めつけた。
子ども向けの割りには中々の演出だ。

『ルシーナ!ルシーナになんてことを!』

『お前の正体、この女の前でばらされたくなければ、膝まづけ!』

『いやだ!それでも、正義のヒーローハイパーマンは、お前を倒す!』

ハイパーマンは真っ正面からモンスターに突っ込む。
映画館にいる子どもたちがハイパーマンを応援し始めた。

「頑張れ、ハイパーマン!」

「そんなやつ倒しちゃえーっ!」

応援どころか、お茶をストローで吸い込んで飲む私。

『ハイパーキック!!』

『遅い!てりゃあっ!』

悪者が、名も無き必殺技を出してハイパーマンの仮面を剥ぎ取る。
ヒロインのルシーナも愕然とする。

『あなたは…ゼイルじゃない!あなたが、どうして…!』

『そっ、それは…!!』

『二人まとめて始末してやる!てりゃあ!』

『グホッ!!』

私はボーッとしながら頬杖をして見る。
何せ部屋自体が暗いから、余計ボーッとしてきちゃうんだけど…

『ゼイル!』

『ルシーナ…。もし、この戦いで俺が勝てたら…グハッ!』

『ハハハハハハハッ!そんなにこの女を守りたいか!所詮は人間…愚か者め!』

正体のばれてしまったハイパーマンは、それでもルシーナを守ろうと必死にかばう。
泣かせる話だ。

『うっ…うおぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!!』

『何ッ!?どこにそんな力…ギャアァァァァァアァァァアアァッ!!』

最後の力を振り絞ったハイパーマンは悪者に致命傷を負わせ、見事戦いは終わったのだ。

そして、世界の平和はハイパーマンの手によって救われたと言うのがオチだ。
そんな最高のオチで、私はとうとうボーッと…を通り越して意識が途切れた。

エンディングが終わったとき、南野秀一が気づいて私の肩をトントンっと起こす。

「あっ…終わっちゃったの?」

「えぇ。行きましょうか。」

映画館を出て、私と南野秀一は近くのファミレスで食事をとった。

「どうでしたか?映画の感想は。」

南野秀一はグラタンを頬張りながら私に訊ねる。

「…子ども向けの映画の割りには、濃い内容ね。ありがちな流れではあったけど。」

私も、リゾットを食べながら感想を言った。



「子どもの頃、あんなに純粋だったかなって改めて思いましたよ。僕なんて自分のことしか考えていなかったよ。」



南野秀一はナプキンをとって口元を拭く。

その言葉は、なぜか私の心にも響いた。

私も、自分のことしか考えていなくて、だから両親を…。



「似た者同士かもね、私たち。」


私は口角をあげると、南野秀一の瞳が大きくなる。









「笑った…。」









南野秀一がポロっと口に出す。
私はすぐに表情を戻す。


「笑う?誰が?」

「初めて君の笑ったところを見ましたよ。女性は笑顔が大切ですよ。」

私は水をごくっと飲んだ。

「それに、僕と似た者同士って言ってくれましたし、今日は色々収穫できましたね。」

「撤回する。見た目も中身も赤の他人だから似た者同士と言うのは可笑しい。よって、ただのヒトだ。これなら良いでしょ?」

「素直じゃないな…。もう少し優しくしてくださいよ。」

「私、Cちゃんじゃないもん。」

私がそう言うと、南野秀一はゲラゲラ笑った。

「そうですね。君の言うことは最もだね。君は君、僕は僕。でも、内心嬉しかったですよ。そういってくれて。」

「思ったことをなんでも言えばいいっていう問題じゃないのよ。すこし控えたら?」

「でも、それは君のわるいところでもある。言いたいことを言えないでそのまま溜めて一人で爆発してしまう。君の良くない癖だよ。」

自分でも気付いていたことをいわれてカチンと来る。
確かに、私が爆発してしまう原因は、人になにも言わないからだ。
小さい頃から周囲に相談するという環境どころではなかったから、それも影響しているんだろう。

「あなたの一番悪いところは、人の心を見透かす事。それがなければもう少しいいのに。」


「何か言いましたか?」



「しーらない。」
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