夢ヲ見テイタ
□Chapter. 6
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「やっぱり、君だったんですね。」
振り返ると、そこにはニコニコ微笑む南野秀一が立っていた。
Cちゃんは南野秀一の顔を見るなり、頭を下げた。
「ごめんなさい!昨日は花子が酷いこと南野くんに言っちゃって…。だから、気にしないでください!」
Cちゃんが私の事を南野秀一に謝った。
「いいえ、シツコイ僕にも原因があるので。…今日はCちゃんの方でいいのかな?」
「あ、はい!そうです!それでその…」
私がいいかけると、南野秀一が「取り合えず、歩きながら。」と促した。
南野秀一が横目でちらっと見ると、そこには盟王学園の男子生徒が顔を赤らめ、鼻息をフンフンと音をならしながら私たち二人を見ていた。
「そう…ですね。」
Cちゃんも苦笑いしながら、南野秀一の横を歩く。
その瞬間に、盟王学園の男子生徒が続々と倒れる者が現れ、彼らに共通した唯一の症状は、鼻から流血していることだった。
なんともお粗末な話である。
「それで、話はそれだけでは無いですよね?」
何もかも行動パターンを見透かしているかのように彼は言った。
その瞬間、Cちゃんの頬が染まる。
「あっ、あの…その…」
モジモジと、手を動かして恥ずかしそうにする。
もちろん、そんな態度をみたら、切れ者の南野秀一でなくとも何となく察しがつく。
「花子じゃないの。あくまで私のキモチで…その…南野くんのこと…」
肝心の最後が言えず、口をつぐんでしまう。
南野秀一は、その先を聞こうと、Cちゃんの目を見る。
「南野くんが…好き。」
勇気を振り絞って、Cちゃんが言った。
でも、それはCちゃんが南野秀一の事が好きだと私が言ったため、Cちゃんも南野秀一自身も自覚済みの上での告白だった。
「…僕は、君の事好きだよ。でも、君の気持ちに対応はできない。なぜなら、君とは友達でいたいから。」
南野秀一は素直にそう言った。
Cちゃんにも、わかっていた。
予測できた。
でも……
「やっぱり…花子のことが…」
「さぁ、どうだろう。君の中にいる人格全てが耳と研ぎ澄まして聞いているわけだし、自分の気持ちを軽々しく言う言葉でもない。言葉には、責任を持たなければならないから。」
南野秀一がそう言うと、Cちゃんは微笑んだ。
ただ、それは偽りのカオではあるけど…
「…ありがとう。私、それを聞けてよかった。…じゃあ、バイバイ。」
Cちゃんが足早に去っていった。
南野秀一とは隣人関係であるから、途中まで一緒に帰りたくても、帰れなかった。
気まずいとか、そう言うんじゃなくて、Cちゃんの心にはナゼか重くのし掛かる痼のようなものがあった。
知らぬ間に、憎しみと激しい怒りが込み上げてきた。
「なんで…なんで私じゃないのよ!」
普段は明るくて、気さくで、笑顔のたえないいい子なのに、なぜここまで豹変したのか。
玄関の扉を開けてカギをかけると、リビングのペンたての中に一緒に突き刺さっていたカッターナイフを取り出した。
“なっ…何をする気だ!”
Bちゃんが焦る。
他の人格も、Cちゃんのこの異常な行動に思わずざわめく。
「私なんて…必要ないのよ!!」
“よせ!これはお前の身体じゃない!私のだ!”
主人格である私も、Cちゃんの暴走にブレーキをかけようとする。
「もう見捨てられたの!私も、Bちゃんも、Dちゃんも…みんな見捨てられたの!それもこれも、みんな花子のせいよ!」
“どういうこと?ちゃんと説明しろ。”
私が冷静に対処するが、Cちゃん勢いは止まらず、目尻には涙が溜まっていた。
そのままCちゃんは、お風呂場に向かって湯船の蓋をあけた。
そこには、昨日使った残り湯がまだ残っていた。
“まさか、正気か?!”
Eちゃんがこれまでにない恐怖の声を漏らす。
「私も、みんなも必要とされなくなったのは、みんな花子のせいよ…。だから、私が死ねばみんなリセットされて、花子も殺せるってわけ…。一石二鳥でしょ?これ以上の得は無いよ!」
Cちゃんはカッターから銀色に輝く刃をギシギシとならしながらゆっくり出した。
“花子が何をしたって言うの?!南野を追い払ったから?なのに南野は花子を守ろうとするから、それが憎く思ったの?逆恨みじゃない!”
DちゃんはCちゃんに怒鳴り散らす。
それでも、Cちゃんは何も受け入れなかった。
「…もう……これで最期よ!!」
自分の手首を思いっきり深く切った。
悲鳴をあげたくなるほどの苦痛。
ジワジワと湯船の水面に広がる赤黒い液体。
私の悪夢は、どうやら正夢だったようだ…。
『腕を切り裂き、吹き出すマグマをミナモに浸けて…』
「イヤアァアアァァァァアァアァァァアァアァアァッ!!」