夢ヲ見テイタ
□Chapter. 9
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「ちょっと…!花子ったら、なんてこと…」
Dちゃんがいいかけると、表情が変わった。
南野秀一はそれに気づいて、半歩下がる。
「…ふぅ。危ない、危ない。安心しな。Dちゃんはウチが鎮めたからさ。」
「君は、Eちゃん…ですか?」
南野秀一もだんだんどの人格か分かってきたようで、Eちゃんはうなずく。
そして、後ろにいる陣を見る。
「ウチのDちゃんが、悪いことしたな。あー…しばらく花子は出れないんだ。最近連日で出てたからさ。だから、そうだな…。2週間後、また来てよ。そしたら、出てると思うからさ。」
Eちゃんがそう言うと、仕方ないと言う感じで渋々、陣は帰っていった。
そして、再び目線を南野秀一に向ける。
「どうも。母親殺し振りだねぇ…。気を悪くしないでよ。Dちゃんは、昔から淫乱だからさ。こっちも早目に手を打つようにしてるんだよね。」
Eちゃんがこの状況を説明した。
しかし、なぜいきなり南野秀一が視界から消えようとしているのかという目的がわからない以上、話をするだけ無駄骨だと感じたEちゃんはそのまま歩き出した。
「そう言うこと。じゃあな、南野。」
Eちゃんはブレザーのポケットに手を突っ込んで、そのまま下校した。
南野秀一は、拳を握りしめ、Eちゃんの背後を見つめながら、ゆっくりと足を踏み出した。
その頃、霊界では、私の素性を調べていた。
前回、南野秀一に、可能性の1つとして話したらしいが、どうやらその可能性は強まっているようだ。
「コエンマ様。花子の調査はどうなさってるんですか?」
青い皮膚が特徴的なジョルジュ早乙女が、コエンマさんの横から聞いてくる。
「う〜ん…調査は進んでいるんじゃが、どう見てもなぁ…」
コエンマさんは喉の奥を震わせながら、唸るばかり。
ジョルジュさんも、コエンマさんの目の前にあるモニターを一緒に見ながら考える。
「今思えば、なぜ母親が霊界に来て、再び人間界に降りたのか、その意図が分かるような気もしなくはないな。」
コエンマさんはモニターをジーっと見ながら頭を働かす。
「でも、ホントに花子は“妖怪”何ですか?」
ジョルジュが驚きの発言をする。
「…一概には言えん。しかし、蔵馬からの報告によると、彼女は一回、自称Cちゃんという人格に左右され、表面上自殺を図っている。その時の手術で、妖力は少ないが、蔵馬が血を分けたそうだ。」
「でも、それと花子が妖怪であることになんの関係があるんですか?」
ジョルジュさんが聞き返すと、コエンマさんは話す。
「採血をしたとき、蔵馬は妖狐の時程ではないが、多少妖力を自分の血に練り込んだらしいんじゃ。」
「えぇっ!?それじゃあ、普通の人間じゃ、体が受け付けられなくなって、死んじゃいますよ!」
ジョルジュさんが両手を頬に当てて、ムンクの叫びのような表情で驚く。
それを冷静な返事で返す。
「でも、花子が生きているということは、妖怪である可能性が高い。もしくは、人間と妖怪の間に生まれた子だな。つまり、母親も霊界から人間界に降りる前から、妖怪だった可能性がある。…まだ、半信半疑じゃが。」
あくまでも可能性の一部として話していたこの会話は、もちろん私は知らない。
しかし、南野秀一は知っていた。
予めその話を聞いていて、私が妖怪であるという確証が無い中、自分の血に妖力を練り込んだと言うことは、そうとう自分の推理に自信があったのか、ただ単に信頼していたのか、或いは殺したかったのか…
いずれにせよ、私は生きているため、妖怪である可能性が高い。
…ま、南野秀一が妖力を練り込んだ際に、上手く練り込めなかったという線も残っているけど。
「それに、多分花子は多重人格ではない。…強いて言うなら、多重人格ゴッコと言うべきか。」
「えぇっ!?でも、実際に人格がいっぱいあるじゃないですか!Bちゃんとか、Cちゃんとか…」
ジョルジュさんが不思議そうにコエンマさんに訊ねる。
「いいか?普通の多重人格と言うのは、体も、心も、頭も、その人格に乗っ取られ自分とは別の人格になってしまうことを言うんじゃ。その時他の人格は眠っているような状態だから、表に出てるときその人格が何をしていたのか分からないはずなんじゃ。意味が分かるか?」
「つまり、ここで言うBちゃんの人格が出ているとき、他の人格にはBちゃんが今までに何をしていたかの記憶が無いはず…ってことですか?」
ジョルジュさんが例を取り上げて聞くと、コエンマさんは頷いた。
「だが、花子はどうじゃ?普通の多重人格と明らかに違うのは、他の人格とコンタクトをとれると言うことだ。普通の多重人格者なら、どの人格があるのか把握は出来ても、その人格と会話はできない。なのに、花子には出来る。ここが、大きな違いになってくるんじゃ。」
私にも知らない謎が、霊界によって解かれていく。