夢ヲ見テイタ
□Chapter. 9
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学校が終わり、Dちゃんは駅に向かうと、またしても出くわした南野秀一。
それでも、話しかけても無駄なことはもう分かりきってるから、あえて話さなかった。
最寄りの駅を降りていくと、帰路につく。
その途中で、嫌なものが目にはいる。
「花子!会いたかっただぁ〜!考えはまとまったべか?」
輝かしい目で見てくる陣。
しかし、今の私は花子ではなく、Dちゃんであるため、まとまったも何もないわけだ。
「残念。今日は、花子じゃなくて、Dちゃんなの。う〜ん。それにしても良いからだしてるわね。ステキ。」
Dちゃんは、陣の耳元で囁く。
“おい!変なことするのは無しだって言っただろーが!”
Bちゃんがぶちギレ寸前でDちゃんに言う。
「やだ。それは、秀一くん…でしょ?この人にしちゃダメとは言ってないじゃない。」
Dちゃんがボソッと言う。
ズル賢さはピカイチだ。
“…確かに、南野秀一とするなとは言った。しかし、謹慎処分の意味は淫らな行為を慎めという意味で、私が出したんだ。”
「でも、私が出ている以上、謹慎処分の対象にはならないはずよ?花子のいう謹慎処分は、あくまでもワタシの中にとどめておくことであって、今は解除している。つまり、秀一くん以外とだったら…良いのよね?」
Dちゃんの言葉に圧されてしまう。
このままでは、謹慎処分をした意味がパーになってしまう。
「大体ね、性行為をしないまま死ぬことは、ないと思うわ。少なからず、花子はね。だって、秀一くんがいるんだもの。うふふ。うらやましい。」
“ふざけないで!今すぐ戻れ!Eちゃん、悪いけどDちゃんと…”
私がそういいかけると、陣が不思議そうにする。
「さっきから何を一人でしゃべってるんだ?」
「何でもないわ。それより、キスしない?」
Dちゃんが積極的に攻めてくる。
このままだと、歯止めが聞かなくなってきてしまう…!
それも束の間で、Dちゃんは陣の唇を奪った。
住宅街の路上のど真ん中で、妖怪と人間がキスをするなんて、前代未聞だった。
「柔らかい…。もう一回言うけど、私は花子じゃないから。」
“お願いだから止めて!!”
私が止めようとするが、止まるどころか加速する。
「何しているんだ?」
振り返ると、そこには南野秀一が立っていた。
一連の流れを見られていたんだろう。
「こんにちわ、秀一くん。」
Dちゃんが妖しげな微笑みをする。
南野秀一の顔はひきつっていた。
「嫉妬した?でも、花子があなたとはするなっていうからしないだけなのよ?」
すると、陣が私の肩を掴んだ。
陣を見ると、いつもの明るい顔ではなかった。
「なんか…よくわかんねーけど、嬉しくないべ。」
「何が?秀一くんの次みたいで嫌ってこと?それとも、私の人格が嫌?」
南野秀一は目を伏せた。
頭の中では分かっているのに、自分の好きな女と他の男がイチャイチャしているところが、想像でも考えたくないのに、目の当たりにするのは心が重い。
自分のものにしたい…
そんな想いだけが募っていく。
「…今の人格が、おらにあってない気がするべ。」
陣が言った。
私はそう言われて安心した。
「でも、花子は好きでしょ?」
Dちゃんがそう聞くと、輝かしい表情で陣がうなずいた。
訂正。
私が出たところで何も変わらない。
安心はできない。
「Dちゃん…もう良いじゃないですか。」
南野秀一は、我慢ならなかったのか、Dちゃんと陣の間に割って入ってきて、距離をはなした。
「蔵馬!何するべ!」
南野秀一は陣の言葉を無視して、Dちゃんの肩を掴んだ。
「あら、なぁに?私たちを見て、ムラムラしてきたの?」
「そうじゃなくて。あなたが今彼女ではないと分かっていても、端から見れば彼女の行動にしか見えないんです!だから…」
南野秀一が言葉を探しているのか、戸惑っているのか、押し黙ってしまう。
だが、その反応に心が揺さぶられたのか、Dちゃんはニヤニヤする。
「つまり、自分の大好きな花子と重ね合わせて、興奮してたんじゃない。」
「だっ、だから興奮とか、そう言うんじゃなくて…!」
“もう、最悪”
Eちゃんがため息をつきながらワタシの中で言う。
“こいつの悪い所だよな。いい加減止めろよ。”
Bちゃんも呆れながら言う。
私は苛立たしげにする。
だが、今は出れない。
最近出すぎたため疲れてしまったからだ。
それに、今出れば思う壷だ。
だが、このままではDちゃんの暴走は止まらない。
“Eちゃん、出てくれない?”
私はEちゃんに頼むと、喜んで出ていってくれた。