夢ヲ見テイタ
□Chapter. 6
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ある日突然、南野秀一からのシツコイ攻撃がプツッと途絶えた。
これはこれで嬉しい話。
どうせ、他の女の子に目移りしたんだろう。
最初からこうなることは想定済みだった。
今日はCちゃん。
スキップしながら下校するCちゃんは、唯一女の子らしい表情をするワタシの人格だ。
「今日の夕飯はカレーライス♪ドライカレーに、グリーンカレーに、インドカレー♪どれもみんな美味しいなぁ〜♪」
陽気に歌いながらにこやかに帰る。
Cちゃんがふと空を見上げる。
すると、空の方から私の家に目掛けて何かが堕ちようとしていた。
Cちゃんはスキップから走る方に切り替えて家に向かうと、既に窓ガラスが割れて、家の中は土煙がたつ。
咳をしながら中へと進んでいくと、何やら不審な“人影”を見つけた。
「いやぁ〜ん!ガラス踏んじゃった!いたぁいっ!」
足の裏から僅かに血が滲む。
だが、足を止めずに進む。
「イテテテテテッ!あちゃ〜人間界まで来ちゃっただな〜!」
「キッ…キャアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!」
Cちゃんは悲鳴をあげて尻餅をつく。
何せそこには人と思われる人物が居たからだ。
でも、それにしては上半身がほぼ裸と言っても過言ではなくて、しかも人間を超越したような筋肉の付き方。
しかも、染めたとは到底思えないような、まるで南野秀一のような赤い髪の毛。
こいつは一体…
「あっ、悪かっただ!ここ、お前の家だべな!」
「ひぅっ…!ホントに…人間なのぉ〜?」
Cちゃんは、もはや涙腺崩壊しそうだった。
「俺は人間じゃないべ!」
変なタイミングでカミングアウトするこの男。
「にしても、お前可愛い顔してるべな〜!よし!オラの嫁にならないか?」
もう…なんなのよ、このやりとり…。
“なんだ、コイツ!ケンカ売ってんのか!”
Eちゃんがカンカンに怒る。
「イヤ!そんなの、ワタシが反発しちゃう!」
Cちゃんがそういうが、相手の自信ありげのこの男には通用しなかった。
「いいじゃねぇべか〜!あ、子どももいいべ!何人ほしいべ?」
“コイツ…俺に殴られてぇのか?”
Bちゃんが腹立たしくそう言う。
「子どもは欲しいけどあなたとはイヤ!私は南野くんと結婚するの!」
Cちゃんが無責任なことを言う。
“バカ!何を言うのよ?!私は南野秀一なんかと結婚しないわよ!”
主人格の私が反発すると、他の人格たちもブーイング。(DちゃんとFちゃん抜いて。)
「南野?…あぁ!蔵馬のことだべか!お前蔵馬の知り合いなんだベな〜!これは強敵だべ。」
「そっ…そうよ!南野くんは、私のご近所さんで、何て言ったって婚約済み何だからっ!」
Cちゃんの大ホラ吹きが止まらない。
これは後々面倒になりそうだ。
「蔵馬と婚約ぅ?!嘘はよくないべ!蔵馬がそんな積極的になるわけがないべ!」
名前も知らない妖怪(?)がCちゃんに指を指しながら信じがたいような表情で言う。
「うっ…でっ、でも!私と南野くんは、運命の赤い糸で繋がってるんだから!名前も知らないどっかの誰かさんにとやかく言われたくないよ!べーだっ!」
舌を出してからかう。すると、勝手に相手から自己紹介する。
「オラ、風使いの陣だべ!」
「聞いてないよ、そんなの!もう、南野くん呼んじゃうんだから!」
Cちゃんが暴走する。
私がCちゃんのブレーキをかけようとする。
“よさないか!やっと南野秀一が私の目の前から消えたのに、こっちが出向かうとはごめんだ。戻って、とっととあの男を追い出せ。”
私がそう言うとCちゃんは足を止めた。
「うーん…。でも、花子は最近南野くんにあってるから良いけど、私は会ってないもん!」
“だったら、ウチが無理矢理にでも出て、あの男ぶん殴ってきてやろうか?”
Eちゃんが嬉しそうに言う。
“ククッ…それなら、僕にやらせてよ…。殺したくてたまらないんだ。そろそろだれか一人殺らないと、頭が可笑しくなりそうでねぇ…。”
Fちゃんが狂気に満ちた声で言う。
お前のその考え方が既に可笑しいと突っ込みたくなる。
「イヤ!やっぱり南野くんに会うもん!」
Cちゃんは聞く耳持たず、そのまま玄関に向かおうとすると、玄関の扉が勝手に開いた。
「僕が、なにか…?」
「あっ、蔵…!」
「南野くぅーんっ!」
陣の言葉を無視してCちゃんは南野秀一に飛び付く。
もう…最悪だ。
「うわぁあっ!なんですか、いきなり…!」
「えへへ〜!今日は花子じゃないから安心して!Cちゃんの日だから♪」
Cちゃんは嬉しそうに南野秀一の制服の生地に頬をすりすりと猫のようにじゃれる。
「蔵馬!おめぇに人間の女がいただなんて思わなかったべ!」
「陣…!?どう言うことだ?」
どうやら面識があるようで、南野秀一は陣を見るとオドオドと挙動不審になる。
「空飛んでいたら、急に突風に巻き込まれて、気付いたら人間界のその女の家に堕ちてたんだべ。…とにかく、その女はオラがもらうべ!」
「おっ、おい…!これはどうなってるんだ?頼むから、主人格の方を出してくれ!」
南野秀一が私の肩を揺する。
でも、Cちゃんは首をふった。
「イヤ!なんでそんなに花子ばっかり頼るの?私じゃダメなの?」
Cちゃんは涙を溜める。
“Cちゃん…頼むから、変わってくれないか?気持ちは分かる。あとで南野秀一と存分に楽しんでいいから…”
私がそう言うと、「分かった。」とCちゃんが返事をする。
主人格になると、私と南野秀一の体を引き離した。
「彼は単に私の顔に惚れただけよ。」
「…?おめぇ、いきなり性格変わっただな〜」
陣が驚く。
それもそうだろう。
「えぇ。多重人格者だから、不思議じゃないでしょ?」
「た…タジュジン?」
陣には初めて聞く言葉なので理解ができなかった。
「Cちゃんは、あなたの事を愛しているわ。でも、どうやらあなたは外部に女の子を作ったみたいだから、私はその目の前にいる陣と出来ても構わないのよね。最初からあなたに眼中は無かったし。」
「オイオイ、そんなにはっきりいわ…」
「それに、思えばあなたは私に自分の事を話していない。陣もふくめ、浦飯幽助もあなたの事を“蔵馬”と呼ぶし、陣のさっきの言動、「蔵馬!おめぇに人間の女がいただなんて思わなかったべ!」っていう言葉。…可笑しいでしょ?あなたが霊力を使えるただの人間なら、“人間の女”じゃなくてただの“女”でいいでしょ?つまり、私は最初から騙されていたのよね?…妖怪の蔵馬くん。」
私がそう言うと、南野秀一は追いやられた表情で冷や汗をかく。
これで、決定的だ。