小説部屋─如月─

□子犬みたいにべったり甘えてみたり
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今日はガンちゃんの様子がおかしい。
コソコソとついてきているのはわかっているけど、いつものように軽く話しかける事はせずに遠巻きに様子を伺っているという感じで、私もどうしたらいいのかわからない。

どうしたらいいかしらと考えながら、こんな時には胃袋を掴むのが早いかしらとアイは手際良く材料を用意し、何かを作る。

捏ね上げてオーブンに入れてしばらくしたら甘い香ばしい香りが漂ってきた。

そうするとふらりとガンが近づいてきた。

「すっごくいい匂いがするー」

「クッキーを焼いたの。もう直ぐ焼きあがるから、一緒に食べましょ」

そう言ってアイはガンに微笑んだ。

ガンには好き嫌いはなく、アイの作るものならなんでも食べる。
そしてその光景を見るのもアイの楽しみの一つだ。

「アイちゃんの作るお菓子って本当に美味しいもんな」

「そう?そう言ってもらえると嬉しいわ」

にっこりと微笑み、焼き上がったばかりのクッキーを皿に乗せ、テーブルに運ぶ。
飲み物は、紅茶がいいだろうと熱々のクッキーを食べるのだからと、飲み物はアイスにする。

そして、出来上がったクッキーを目の前に出されて、ガンは飛びついた。

サクッとした歯ごたえに適度な甘みが口の中に広がる。これなら何枚でも食べれそうという勢いで口に頬張る。

「そんなに慌てなくても、誰も取らないわよ。ガンちゃん」

クスリとアイは微笑みを漏らす。

「で、今日は何かあった?ガンちゃん?」

頬張りながらアイを見る。

「なんで?」

「何でって。ずっと遠巻きに見てたでしょう?」

「あぁ、アイちゃん、いつになったら構ってくれるかなって」

そう言われてアイは目を瞬いた。まさか自分を見ていた理由が構って欲しいからだなんて。いつもなら、こちらの予定なんて聞かずにすり寄ってくるのに。

「でもさ、そんな事をしなくても大丈夫だなって思ったんだ」

いつでも、側にいるだけで気にかけてくれる。そんな君だから。俺はただただ君の腕の中に飛び込んでゆくだけ。

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