小説部屋─山猫─

□話せるだけで幸せ
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初めてアイちゃんと出会ったのは俺が10歳、アイちゃんが9歳の時だった。
『こんにちはー。上成電気店でーす』
『//////』
メカの部品が欲しくて、でもいつも注文してる電気屋が休みだったから、別の電気屋に注文したら、家の手伝いでそれを配達しに来たのがアイちゃんだった。
子猫みたいな可愛い見た目と、鈴が鳴ってるみたいな可愛い声。
初めてアイちゃんを見た時から、俺はアイちゃんに一目惚れした。
でもあとで聞いたら、それはアイちゃんも同じだったみたいで。
『高田ガンっていうの?///。じゃあガンちゃんね∨///。私はアイ///。上成アイっていうの///』
その時に俺の名前を訊いてきたアイちゃんに名前を教えて、アイちゃんの名前を知った。
それからはいつもアイちゃんの事が頭から離れなくて。
アイちゃんの顔が見たくて、アイちゃんに会いたくて、小さな部品を上成電気店に注文しては、アイちゃんがそれを持ってきてくれた。
そのうちアイちゃんは毎日うちに遊びに来るようになって、メカ作りをしている俺が見たいってアイちゃんが言ったその日から、俺達の遊び場は俺の部屋じゃなくて家の作業場になった。
俺が何かを作ってると、アイちゃんは楽しそうに熱中して俺の手元を見ていて。
でも作業場はちょっと埃っぽいし、作業用バーナーや溶接作業で煙りも立つし、アイちゃんに服が汚れるって心配して言ったら、『今、ママにいいもの作ってもらってるから』って、嬉しそうに笑って言って。
次の日、遊びに来たアイちゃんを見て驚いた。
アイちゃんが着てきた服装。
俺と同じ、つなぎの作業服。
帽子まで被って。
『ガンちゃんとおそろい∨』
そう言って嬉しそうに笑ったアイちゃんに、すごく嬉しかった。
俺とアイちゃんは髪型がなんだか似ていて、それをお揃いだってアイちゃんは笑いながら言ってたけど、服装までアイちゃんが俺とお揃いにしてくれた事が、すごく嬉しかった。
「ガンちゃん」
「ん…。アイちゃん?」
「どうしたの?。手が止まってるけど」
いつの間にかアイちゃんと出会ってからの事を思い出す方に集中していて、はんだ付けをしていた手が止まっていた。
「…。うん。アイちゃんと初めて会った時からの事思い出してた」
「ふふっ。私も時々思い出すわ?。もうあれから三年も経ったのね」
「うん」
その三年でアイちゃんは益々女の子らしくなって、顔も可愛さに加えてきれいにもなって。
鈴が鳴ってるみたいだった声も、今でも可愛いけどもっと大人っぽい、きれいな柔らかい声になった。
「アイちゃんはなんでも俺とお揃いだったら喜んでくれてさ」
今でも、あれからずっと、アイちゃんの服装はつなぎの作業着。
あの頃より俺もアイちゃんも成長して、背丈や体格も変わったけど、それに合わせて服のサイズは変えても、俺とお揃いなのは変わらない。
髪型も、あの頃より俺もアイちゃんも髪の毛が伸びたけど、それでも髪型が似てるから、それにアイちゃんがこの髪型も似合ってるって気に入ってくれてるみたいだから、切る気も起きない。
「だってガンちゃんと一緒だと嬉しいもん∨。これもガンちゃんがお揃いに作ってくれたのよね」
普段は服の中に入れてあるネックレスを取り出して言ったアイちゃんが、手の平に乗せて持った通信機。
俺と同じもの。
『いつもガンちゃんの声が聞いていたい』
アイちゃんがそう言ったから、作った通信機。
いつでも声が聞けるように。
いつでも話が出来るように。
アイちゃんとお揃いで、婚約指輪はまだ高すぎて俺には買えないから、その代わりにも、アイちゃんを将来俺のお嫁さんにすると誓って作って、アイちゃんに渡した。
服の時は俺がすごく嬉しかったけど、今度はアイちゃんがすごく喜んでくれて。
これを作ってからはいつも、いつでも声が聞けた。
話が出来た。
姿が見えなくても、アイちゃんの声が聞けるだけで、話せるだけで幸せな気持ちになれた。
今でも、これをつけてるだけで、アイちゃんが居ない時でもアイちゃんと居る気持ちになれる。
今はドロンボー達の動向の通信にも使ってるけど、正義と平和の為にも役立てられてるって、やっぱりアイちゃんは嬉しそうに言っていた。
これは俺達の大事な通信機。
いつでもお互いの声が聞けて、俺がいつか婚約指輪を買える時までの、俺とアイちゃんとの大事な婚約指輪代わり。


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