小説部屋─山猫─

□しめ飾り
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お正月も終わったし、ママにしめ飾りを神社に納めてきてって頼まれたから、持ってきたんだけど…。
(…誰もいない…)
神社の入り口横にある自転車置き場に自転車を止めて、そこから見える神社の境内。
そう広くもない神社だけど、その中に人の姿はない。
(ん〜υ)
ちょっと怖い…υ。
植えられてる何本かの大きな木の、空を覆うみたいに茂った枝葉で陰になってるのと、今日は今にも雨が降りそうなくらい曇ってるから、余計に神社の中が薄暗い。
しめ飾りをそれを納める場所に持って行くだけだけど、その場所は本堂の近くにあるから、神社の奥まで入っていかなきゃいけない。
(…ん…υ)
怖いけど、自転車置き場から境内の石畳の道まで、小さな玉砂利が敷き詰められた所を歩く。
玉砂利がジャリジャリ鳴ってて、この音は楽しくて好きな音なんだけど、人がいなくて静かだと、なんだかその音までちょっと怖い…。
神社ってちょっと特別な場所だから、余計に怖い…。
(誰か来ないかしら・・・υ)
「アイちゃん!」
「Σ!!υ。ガンちゃん!」
怖い時に急に後ろの方から名前を呼ばれてビックリしたけど、その声はガンちゃんの声だったから、怖さが体の中から吹き飛んだ。
「ガンちゃん!」
怖ごわ歩いてきた道を、自転車置き場に自転車を止めてるガンちゃんの所に走って戻る。
「アイちゃんもしめ飾り納めに来たの?」
「ガンちゃんも?」
「うん」
私が持ってるしめ飾りを見ながら訊いてきたガンちゃんの自転車のカゴの中には、付いてたみかんだけ取れてる(食べた)しめ飾りが入ってて。
「いつもはもうちょっと早く持ってくるんだけど、今年は長めに飾ってあってさ」
それを持って、話しながら歩き出したガンちゃんの横を歩きながら、ガンちゃんの体にぴったりくっついたら、ちょっと顔を赤くしたガンちゃんが私を見てきた。
「ど…どうしたのアイちゃん///」
「1人の神社って怖かったの…」
「あ、そっか…。まぁ確かに女の子にはちょっと怖いかな。今日曇ってるから暗いし」
歩きながら空を見上げて言うガンちゃんの手が、私の肩を包むみたいに乗ってくる。
「でももう怖くないよ。オレがついてるから」
「うん」
空を見てたガンちゃんの顔が私の方に向いてきて、力強くて優しい顔をしてるガンちゃんに返事をしながら頷く。
ガンちゃんと一緒に歩く境内。
さっきまでは怖かったけど、今はガンちゃんと一緒だから怖くない。
ジャリジャリ鳴ってる玉砂利の音は今は私とガンちゃんの2人分。
さっきまで怖かったその音も、今はいつもの楽しい好きな音に変わってる。
私が怖がってる時に来てくれたガンちゃん。
ガンちゃんはそんなつもりじゃなかったのも、偶然なのも解ってるけど、でもやっぱりガンちゃんは私が心細い時は駆けつけてきてくれる。
でもここは神社だから、神様がガンちゃんを連れてきてくれたのかも。
そう思ったら、神様も私とガンちゃんの仲を見守っていてくれてるみたいに感じた。


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