黄昏時に伸びる影(合同小説)
□黄昏
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あれから俺はメランに連れられて、初めて神殿の外に出た。
見て驚いた外の世界。
俺は今まで、外の世界は魔物の自分にとって暮らしにくい所なのだとばかり思っていた。
光の差す所になんか行ってしまえば最後、影の魔物である俺は消えてしまうものだとばかり思っていたのだ。
だが実際はどうだ。
美しい黄昏の空に浮かぶポータル
うようよとそこら中を漂う魔物共
俺の為にあるかのような居心地のいい影の世界
「な、なんか…思ってたのと違う……」
「そりゃあそうだヨ!キミ何年ここに閉じこもってたと思ってるノ?ちょっとはお外に出て運動しなきゃ!」
「いや、そうじゃなくてだな…」
相変わらずメランとは単純な会話ができない。
こいつに感化されて外に出てきた…なんて、できれば思いたくないものだ。
外に出てきて驚いたことはもう一つ。
水の神殿は、自分が思っていたよりもずっと深い湖の底にあったのだ。
俺は水の神殿のトラップとして住んでいたため水とは仲良しだ。
だからどんなに深く潜っても苦しいと思うことはないのだが、メランはそうじゃない。
ただの人間のはずだ。
苦しがる素振りをチラとも見せずゆっくりと、至極楽しそうに水面に上がっていくメランに、気味の悪ささえ覚える。
彼女に出会ったときから感じていたのだが、彼女にはある概念がまるで見当たらないのだ。
人間にとって、当たり前であり強い恐怖の対象であるのだろう『死』という概念が。
要するに、彼女が『不死』の存在に思えるのだ。
「お前、まじで気持ち悪いわ…」
「えぇー!?なにソレ!ヒドイ!」
水の中でも喋れるのかよ…
いちいちツッコんでいるとキリがない。
メランが何者かという問いは、この際後回しでもいいか、時が来ればいずれ自ら話してくるだろう。
水面に上がって外の世界の景色に見惚れていると、突然、背後に人の気配を感じた。
バッと勢いよく振り向くと、なにやら顔面に紙を貼り付けた女が
浮いていた。
「浮い…っ!?」
「アカリ!待っててくれてたんだネ!」
女の足がないことにまた驚く俺を余所にメランは嬉しそうに女に駆け寄る。
俺の生まれた時代から100年ばかりのうちに人間はここまで進化してしまったのか。
…いや、足が無いということは退化…なのか?
というか、彼女らはそもそも人間なのか…?