結界師

□触れられない想い
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今俺は、墨村家の玄関の所に居る。
アイツを、待ってる。


「………マジに志々尾?」

きょとんとした表情の墨村が、そこには居た。相変わらずアホ面だな。

「ど、うしたんだ?」
「………一緒に、学校に」
「いやそれは知ってる。そうじゃ無くて!何で突然……」
「嫌だったか?」
「え、別に、嫌って事は………」

そして一緒に歩き出す。


最初の方は、お互いに無言だったけれど、徐々に話し始めた。


「……でさ、俺、こう見えて結構疲れてるんだぜ?」
「………すまねえ」
「え?」
「俺は、壊す事しか出来ねえから………」

いつもコイツは、明け方まで、妖と戦ってボロボロになった学校を修復してくれていて。俺は何も出来ないから、帰るしか出来なくて。

「………別に、お前が謝る事じゃねえよ。それだって、結界師としての仕事だし」
「だが………」
「本当に気にすんなって!もし詫びたいなら、俺の家に来い!一緒に、ケーキとか作りてえんだ」
笑顔で俺に、そう言ってくれた。
可笑しいな。初めの頃は、ただコイツの存在が憎くて、苛ついていて。
けど今じゃ、何故だろう。ふっと笑いたくなる。
「………なあ志々尾。お前、大分変わったな」
「え、そうか?」
「ああ。前に比べて、感情を表に出して来たって言うか……。うん、それの方が良いぜ!」
そりゃ、お前に出会えば、誰だって変わるだろうよ。その、優しい性格を見ていれば、な。




学校でも俺は、なるべく墨村と一緒に居た。
昼休みは、一緒に屋上でコイツが授業中に書いているお菓子のノートを見させてもらっていた。
「………こんなの、作れるのか?」
「まあ、材料と根気があれば」
「……………」
「やっぱ、男がお菓子作ってるって格好悪いよな」
「いや、………良いんじゃねえか?」
「あっ……」
俺らしくない台詞。本当に、変わったんだな。
「なあ、今度さ苦い感じの何かを作ってくれよ」
「ケーキで良いか?」
「任せる」
「おう、任せとけ!この良守様が、特別に作ってやる!」
ったく、その自信は一体、何処から出て来るんだよ。
「………さて、と。今日ぐらい、授業受けるかな!」
「……なら俺も」
「学校生活、楽しもうぜ!」
お前はそう言ってくれるけれど、俺には、無理なんだよ。

過ぎ去って行く墨村……。良守の背中に触れようとした。けど、触れられなかった。
もどかしさが、俺の心の中で、渦のように回っていた。

俺が、妖交じりじゃ無ければ………。普通の生活を、出来ていたのかもしれない。こいつとは、また別の形で出会って。


「志々尾ー?」
「………今行く」

呼ばれたから、行く。本心は、学校何てどうでも良い。けど俺は、お前が居るから―――。







END

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