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□手紙回し
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「はぁ…」

花京院 典明──

成績優秀で品行もよく容姿端麗。周りからの信頼も厚い。
ただし、友達と呼べるような人はいない。


そんなほぼ友好関係以外は完璧な彼が今悩んでいる事。

それは

後ろの席の男。空条 承太郎 について。

成績優秀ではあるが暴力的で他人との関わりを持たない一匹狼。容姿端麗で女子には好かれる。


そんな彼と
手紙回しをしている事だ。


きっかけは、花京院が授業の暇潰しに 暇だ。 とか 今日のお弁当は何が入ってるだろうか。 とか他愛もないことを書いたプリントが風に飛ばされて空条の席の方へ行ってしまってからである。
たまたま、偶然、起きていた空条にそのプリントを見られてしまい、空条に 意外と面白いんだな と言われ、次の日、空条から プリントの隅に 眠い。 と達筆な字で書かれた物が渡され、そこからずっと友達のような会話をしているのだ。

放課後や休み時間は全く二人は喋らないが授業中、手紙回しを通じてよく話し合った。

花京院はとても楽しく、空条も飽きずに回し合っていた。

では何故悩んでいるかというと、


最近、空条の事が好きだというのを自覚し始めてきたからである。
手紙の返事が早く返ってこないかそわそわしながら待っていたり、移動教室や体育で出来ない時は項垂れたりしている。


そんな花京院の変化に気づいたのか、空条は手紙で

「どうした。悩み事か?」

と気にかけて、後ろから回してきた。
花京院は後方からの視線がある事に気付いた。恐らく心配して、花京院の返答を今か、今か、
と待っているのだろう。

(空条が心配してくれてる‥)


「なんでもないさ」

花京院はにこりと微笑みながら空条へと回した。
自分の事を心配してくれる空条がやっぱりすきだなあ。と思った。
空条はそれを受け取り、数秒そのプリントをみつめていたが直ぐにシャーペンを取り出しスラスラと書き始めた。
十秒程したところで花京院にプリントが回ってきた。


「俺の事が信用できねぇか」


いつもの達筆な字なのだが、いつもと少し違う。その違和感は、すぐに消された。
いつもより、筆圧が濃いのだ。
それだけ、その言葉に自分の感情が入っているのだろう。
花京院はそれが嬉しくて、たまらない気持ちになった。
それを悟られぬよう、次に少し打ち明けてみた。

「ああ、解ったよ。実はどうやら僕は恋をしてしまったみたいだ」

そう書き綴り、空条にそっと渡した。
後ろで呼吸が乱れた音がした。
そして、空条は一つ長い息を付き、小声で やれやれだぜ と言った。
そうして、帽子の鍔を押さえて深く被り直し流れるように書いた。

空条は前方へ手紙を回した。

「そいつは、誰だ」

花京院は頭を悩ませた。こんなにストレートに聞いてくるのだから。
気のせいだろうか、いつもより殴り書きに近い書き方だった。
このまま本当のことを書いてしまおうか。
嫌われないだろうか。
花京院は今までにないくらい考え込んでしまった。
それでも、本当の事を書こうと決めた。
好きな人に嘘をつくのは、心苦しいからだ。
どんな返答でも、受け入れようと考えていた。
花京院は意を決してゆっくりと、丁寧に、書いていった。
そして、自分の書いた文字を見直し、震える手で空条へと回した。

「君が好きなんだ。空条」

そこには、優しく、いつもより綺麗な字で、そう。書いてあった。
空条はそれを見ると、心底驚いたような顔をずっとこちらを向き続けている花京院へ向けた。

(今の空条の顔‥珍しいものを見てしまったようだ)

花京院は今から返答が返ってくるというのに吹っ切れたように、そんな事をぼんやりと考えていた。

ああ、これで終わりなのか。
やっぱり、伝えないほうが良かったか。
楽しかったな。
そういえば、もうすぐ昼休みだなあ。

などと考えていると、
トントン。不意に後ろから右肩を叩かれた。
どうやら空条からの返答が決まったらしい。
空条の手は心なしか、震えている様な気がする。
花京院は受け取り、見ようかどうか暫く悩み、数分して空条からの言葉を見た。




「俺も、好きだ」




花京院は目を疑った。
自分の目が幻覚を見ているかのようだった。
確かにそう、書いてある。
空条と自分がお互いに想い合っていたという事を、プリントを通じて実感した。
花京院は空条の方を振り返った。
空条は頬杖を机に付きながら空を見ていた。
花京院の視線に気が付き、目線だけを花京院に移す。
そして、空条の口が徐ろに開き、声は出さずに、







好きだ






と、言っていた。
意を読み取った花京院は口元を手で抑えた。
頬が赤潮していくのを感じた。
同時に授業が終わるチャイム音がした。
次は昼休みだ。
空条はゆっくりと席を立ち、花京院を見遣った。


「行くぞ。花京院、屋上だ」


初めて、声をかけられた。
花京院は空条が自分の名前を呼ぶことに違和感を覚えたがそれすらもくすぐったかった。
それに応える様に ああ。 と洩らし花京院も席を立つ。

二人は並ぶように歩き、屋上を目指した。


これからも手紙回しを続けるだろう。お互いにそう心に思っていた。



fin

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