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□夏祭り
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「すまない、待ったかい?」

そう言ってゆっくりと下駄を鳴らしながら歩いてくる花京院は深緑の浴衣を身に纏い、扇子を片手に持っていた。

夏休み、六時頃でもまだ陽は少し出ていて、赤紫色の空がどこまでも続いているようだった。
承太郎と花京院は承太郎の家で待ち合わせをして、そこから神社の祭りに行く予定だった。


「いや…それより‥」
「どうしたんだい?」
「似合ってる」
「それはどうも。君もだけどね」


承太郎は黒い浴衣に黒い下駄を履き、腕組みをしている。
とても絵になっているなと花京院は感じる。

そんな花京院の感心を他所に承太郎は神社へと歩き出した。
少し遅れて花京院も承太郎の隣へと肩を並べた。

神社へ到着すると、多くの人で賑わっていた。
二人共、人混みの中は苦手だが、この中に屋台などもある為、入る他無かった。
そこへ花京院が足を踏み入れようとして、承太郎が手で制し、手を差し出した。

「‥ほら」
「…え?」
「逸れちまうだろ」

承太郎を見ると心なしか頬が赤い。照れているんだなぁと思い、くすりと笑うと、返事の代わりに承太郎の手を受け取った。
ほのかに暖かい、大きな手に掴まれて安心する気持ちを花京院は感じていた。


屋台を見て回ると、承太郎は焼きそば、唐揚げ、花京院はたこ焼き、りんご飴を買って祭りだからこそ出来る食べ歩きをしながら他の店も見て回った。

射的で花京院は足を止め、景品を見た。
そこには花京院が欲しがっていたゲームがあった。
それに気づいたのか承太郎は やれやれだぜ と言いながら店の人にお金を払い射的をすることにした。

弾は五発あった。その内四発撃ち、しっかり狙いに当てるのだが、びくともしない。
苛立ちを込めて承太郎は舌打ちをした。

「承太郎、こういうのは必ず仕掛けがしてあってね‥」
「…」
「後ろに支えにしている物があるという訳さ」

花京院は薀蓄を垂らしながら自慢気に語った。
それを聞き、承太郎はスタープラチナを出現させた。
そして、花京院が見ていない隙を突いてスタープラチナで弾の当たるタイミングと同時にそっと倒した。
周りにいた人からは歓喜の声が洩れてきた。
店の人も倒したことに驚いた様な顔をしていた。

「倒したんだ。貰っていくぜ」

承太郎は景品のゲームをひょいと持ち上げそれを隣で一連を見ていなかった花京院に渡した。

「まさか君‥」
「先に細工を仕掛けたのは向こうってもんだぜ」
「はぁ‥全く…」

花京院は思わず、やれやれだよ と、誰に似たのかそう洩らしていた。
それでも、自分の為にそんな事をしたというのを知っている花京院は ありがとう と口に出し、ふわりと溢れんばかりの笑顔を承太郎に向けた。
承太郎が必死にいつものポーカーフェイスを保っていた事は、喜んでいる花京院には解らなかったようだ。
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