企画部
□2015大晦日企画
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大晦日だからといって、12時過ぎまで起きているなんて、有り得ない。
それが、眠たがりの詩織の考え方だった。
詩織は、なにがあっても、必ず9時半には床につく。
たとえ、その日が大晦日であっても、だ。
毎年、実家で過ごしていた大晦日だが、今年はなぜか、恋人である小平太の家にいた。
そして今、お風呂に入りご飯を食べて歯を磨いて寝る準備は万端だったのに、もう9時半を過ぎ、すでに11半時をまわっていた。
それなのに、詩織はまだ床につけていなかった。
「……こへーた…ねむい…」
「もー、今日は大晦日だぞ?まだ、寝るなって」
「むぅ……まぶた、おもい……」
「ほら、頑張ってー」
というのも、ソファに座った小平太の足の間に座らされて、がっちりとお腹に腕が回された状態なので、布団に行けないのだ。
そのうえ、詩織は座ったままだと、眠れない体質なので、眠いのに眠ることができない今の状況は、非常につらかった。
小平太の腕をぱしぱし叩くが、どける気配はない。
むしろ、ぎゅう、と力を込めて抱き締めてきた。
「一緒に、年越そうな」
「もぅ、ねむいの…」
「付き合って、初めて大晦日一緒にいるんだぞ?なんとか、頑張ってくれ」
「…じゃあ、しりとり…」
「わかった!じゃあ、私からな!りんご」
「ご……ごりら」
「ラジオ」
「お、おおかみ」
「ミサイル」
「る、る……」
眠たい思考のせいか、るから始まる言葉が、なかなか浮かばない。
しばらくうなっていると、小平太がカウントダウンをしているテレビを見て、詩織をせかした。
「詩織、あと1分くらいで、来年だぞ」
「えっ」
「ほら、るは?」
「あっ、えーっと…る、る…あっ、ルーマニアっ」
詩織は、自分のひらめきを褒めたくなった。
そして、小平太は、うーんとうなって、次の言葉を考えていた。
「小平太っ、あと30秒だよっ」
「急に元気だなぁ」
「そうでもないよ、眠いよ」
詩織は、小平太にぴったりとくっついて、暖をとる。
小平太の暖かさは、眠気を誘う。
しりとりの続きを待ちながら、うつらうつらしてきた時、テレビから5、4、と聞こえてきた。
少し目を開けると、小平太の顔がすぐ目の前にあって、3、2、とカウントの音と共にさらに顔が近づいてきて。
テレビが、0、と言った瞬間に、小平太と詩織の唇が重なった。
重なったのは一瞬だった、はずだけど長く感じた。
そして、唇が離れると、小平太は詩織の耳元で、甘く囁いた。
「……“あいしてる”」
それが、しりとりの続きなのか、それとも…。
どちらにしても、詩織は顔を赤く染めた。
「…そこは、あけましておめでとう、じゃないの」
「もー、雰囲気ぶち壊しだなぁ」
からかうように言ってきたので、詩織は少し嫌味っぽく言い返した。
「……小平太のせいで、眠気、覚めちゃったよ」
「…ふーん」
詩織の嫌味なんか、なんとも思っていなさそうだった。
むしろ、目をぎらっと光らせて、まるで獲物を狙う獣みたいな雰囲気になっていた。
その雰囲気が少し怖くて、小平太から離れようとすると、そうはさせないとばかりに、ぎゅう、と抱き締めてきた。
そして、詩織の耳元で、再び囁いた。
今度は、低くて、詩織の脳内まで犯してしまいそうな声で。
「目が覚めたなら……私が、朝までずっと、愛してやる」
詩織は、少し怯えながらも、小平太に身をゆだねた。
新年早々、なんてことだ、と思いながら。
終わり