短編

□あの時からずっと
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伊作が四年生になったばかりの頃、保健委員会には人が少なかった。

現在の火薬委員会よりも少なく、六年生と伊作しかおらず、このままではまずいと思った先輩がなんとか一年生からひとり引き抜いた。

その一年生が、三反田数馬である。

ただ、数馬を入れても三人しかいない保健委員会は正直頼りない。

見かねた新野がくのいち教室のシナに頼み、詩紀が配属されたというわけだ。

詩紀は一年生の頃から、いわゆるツンデレで、そこがまた可愛いと委員長に溺愛されていた。

そんなある日のことだ。

四年生のいろは合同の実技の授業が実施されたのだが、伊作のペアは小平太だった。

顔見知りだからか、伊作は自分が不運ということを忘れ、少し気を抜いてしまっていた。

それが悪かったのだろう。

伊作は小平太を巻き込み、派手に転んでしまった。

そして、伊作は珍しく無傷で小平太はかすり傷を負ってしまったのだ。
しかも、小平太は足を捻ってしまい、少し痛そうにそこを押さえていた。


「ご、ごめん!小平太!今、保健室に…」

「伊作、私なら大丈夫だ!このくらいなんとも……いたっ…」


立ち上がろうとした小平太は、痛みで地面に尻をついた。

やっぱりと伊作が保健室に行こうとすると、こちらに向かって走り寄ってくる足音が聞こえた。

その姿を見た伊作は、ほっと胸をなで下ろした。


「ぜんぽーじせんぱいっ」


詩紀が、手当ての道具を持って来てくれたらしい。

さすが、忍者の学校。

情報がまわるのが速い。

そして、小平太のそばに駆け寄る詩紀。


「…くのたま?」


突然くのいち教室の子が来て、小平太は驚いていた。


「いま、手当て、しますから」


詩紀はぶっきらぼうに言い放ち、一年生にしては手際よく手当てをしていった。

少し前に手当てを手伝おうとした伊作は、詩紀に怒られたことを思い出し静かに見守った。

なんでも、小さい傷なら詩紀は自分ひとりで手当てしたいらしい。

小平太はというと、自分を一生懸命手当てする自分より小さいこのくのたまを見て、何か言い知れない感情が溢れるのを止められなかった。

手当てが終わった詩紀は、ささっと道具をしまい、その場を去ろうとした。

だが、小平太が詩紀の腕を掴んだことによりそれは出来なかった。


「私、七松小平太!お前は?」

「……三山、詩紀です」

「そっか、詩紀!手当てしてくれてありがとな!」


そこで、詩紀のツンデレが現れたのだ。


「べ、別に…あなたのためじゃないですよ」

「え?」

「ぜんぽーじせんぱいの同級生だし、怪我人を手当てするのが保健委員会の仕事なだけで…」

「…そうなの…?」


小平太は、あからさまに悲しそうな顔をしてみた。

すると、詩紀は慌てて言い直した。


「で、でも!怪我すれば心配になるし、その…だから、ななまつせんぱいが心配じゃないとかじゃなくて」

「……」

「痛いのは、嫌だし、そんな思いをしてほしくはないから…その、えっと…」


必死に弁解する詩紀が、とても可愛く見えてきた。

小平太はみるみるうちに笑顔になり、足の痛みを忘れて詩紀に抱きついた。

すると、詩紀の顔はぼっと赤くなった。


「詩紀!可愛いな!」

「なな、なに言って…!」

「私、詩紀が気に入った!また怪我したら手当て頼むな!」

「は、はぁ!?け、怪我なんかしないでください!」


詩紀は、顔を真っ赤にしてぷんぷん怒りながらその場を去っていった。

そんな詩紀を小平太は、熱のこもった眼差しで見つめていた。

その眼には、ハートが浮かんで見えたような気がした。




そういうことがあり、それから小平太は詩紀に夢中だった。

詩紀を見かければどこであろうと抱きつくし、詩紀のいる日に限って怪我をしてくるし…。

そんな風にいかにも好意があると示されれば、どんな鈍感な詩紀でも気がつくだろう。

小平太が、詩紀を好きなことに。

口では止めろと言っている詩紀だが、実は嫌がってはいない。
むしろストレートに想いをぶつけてくる小平太に、少なからず惹かれ始めていた。

そんなことを知らない小平太は、今日も詩紀に抱きつくのだった。



終わり
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