短編
□つなぐいと
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LINE、LINE。
みんな、最近の連絡手段は、LINE。
いまだに携帯電話の詩紀は、LINE登録なんてしていないため、まわりについていけなかった。
メールで、なにか聞いても返事は来ない。
失礼な話だ。
だから、最近、詩紀は誰とも連絡はとっていない。
そもそも、メールもあまりしない詩紀にとっては、なんの障害にもならない。
だが、それは思わぬところで、障害になった。
高校を卒業して、就職しても、詩紀は携帯電話のままだった。
もちろん、LINE登録はしていない。
だから、高校のクラスラインというやつで、同窓会をやるという連絡がまわっても、わからない。
そして、その電話は突然やってきた。
就職して、三年。
仕事も慣れてきて、順調に仕事を終えた詩紀の家に電話が鳴った。
午後六時頃のことだ。
「詩紀!久しぶり!」
高校時代、仲の良かった友人からだった。
「おー、久しぶりだね」
「今どこにいんの!?同窓会始まってるよ!」
「え?同窓会?そんなのやってるの?」
三年ぶりの友人からの電話の内容に、驚きつつも、そんなことをやる歳か、としみじみ思った。
「あー、そっか、詩紀、ガラケーだったからLINEしてないのか…今ね、大川家って居酒屋でやってるんだけど、詩紀、来れそう?」
「えー、大川家かぁ、どうしようかな…今から行くのめんどくさいなぁ」
「えー!?詩紀、来ないの!?」
「だってー…仕事終わりだしさぁ」
面倒な理由を話し出した時、電話の向こうで、友人の慌てた声が聞こえた。
「えっ、ちょ、代われって…ちょちょ、待ってって!」
「ん?どしたの?」
「三山!私だ、覚えているか!?」
「え?」
突然、友人ではない誰かが電話を代わったようだ。
詩紀は、聞き覚えのある声に肝が冷えた。
「あ、七松、くん…?」
「おう!久しぶりだな!」
そうだ。
彼は、確か暴君と呼ばれていた。
私とは、住む世界が違う。
そんな彼が、何故、電話を…?
「三山、同窓会来ないって、なんで?」
「こ、来ないとは、言ってないけど…」
「でも、行かないみたいな会話してなかったか?」
「えーと、それは、その…」
言えない。
ただ、面倒だから行きたくないなんて、言えない。
「わ、私の家から大川家って、遠くて…その…なんの準備もしてないし、今から行くのは、た、大変かな、と…」
間違っていない!
家から大川家が遠いのは間違っていない!
準備していないのも、嘘じゃない!
「そっか…あ、じゃあ、私が三山を迎えに行こう!」
「え!?い、いいよ!交通費がもったいないよ!」
「大丈夫!私、車だから!」
「お、お酒飲んでないの?」
「今日は、飲まないことを前提に来てるからな!だから、三山の家に迎えに行く!準備しておけよ!」
「え、あ、ちょ…」
そこで、電話は切れた。
しばらく放心していたが、我に返ると、詩紀はドタバタと外出する準備をした。
三十分後、インターホンがなって、準備が終わっていない詩紀は慌てた。
とりあえず、家のドアを開けると、そこには三年も経ったからか、少し大人っぽい小平太が立っていた。
「久しぶりだな!」
「あ、うん…ひ、久しぶり…あの、準備、まだ終わってなくて…ご、ごめん…」
「ん?いーよ、待っててやるから」
「あ、ありがとう、あの、外で待っててもらうのは、申し訳ないから、上がってて」
「おー、じゃ、遠慮なく」
詩紀に促されて、小平太は家に上がった。
居間のような部屋に通されて、小平太は座布団の上に座った。
そのうちに、詩紀は部屋のすみで髪を結びなおしていた。
化粧は苦手なので、薄化粧だ。
急いで櫛で髪を解かして、髪の束を上の方で結ぼうと、腕につけていた髪ゴムを外そうとした時だった。
突然、後ろから髪ゴムを奪われて、とんっと床に押し倒された。
「え……?」
「なぁ…三山…」
「な、ななまつ、くん…?」
こちらを見下ろす小平太の目はギラギラと、まるで獣のようで、詩紀は身体を硬直させた。
小平太はペロリと舌を出した。
「私、男なんだが…こんな簡単に家に上げて…どうなるか、わかってるのか?」
「え、え…?あ、ぅ…」
小平太が床に散らばった髪をすくい上げて、口づけた途端に、詩紀は顔を真っ赤にさせた。
「今日は、もう…同窓会には戻らない」
「へっ…で、でも…」
「私、本当は三山に会いたくて同窓会に来たんだ。だから、もう会えたし、戻んなくてもいいんだ」
「え…」
小平太は、愛おしそうに詩紀を見つめて、優しく腕に抱いた。
床に寝転がったまま、小平太は詩紀の額に唇を落とした。
真っ赤になる詩紀の頬に、まぶたに、耳にと次々唇を落としていった。
恥ずかしさで、詩紀は思わず涙目になった。
「詩紀…好きだ…」
「あ…な…ななまつ、く…」
「詩紀、詩紀…会いたかった…」
詩紀は、小平太がひどくかすれた声で囁くので、脳がしびれてしまったように、抵抗ができなかった。
それに、彼に対して嫌悪感はない。
友人には悪いが、今日はもう同窓会には行けなさそうだ。
ふと、頭のすみでそう思った。
「詩紀…今は、私以外のことを考えるな」
「あ…」
ついに、詩紀の初めてのキスは、小平太によって奪われた。
詩紀は、耳まで赤くして小さく頷く。
それを見た小平太は、もう一度、詩紀にキスをした。
終わり