短編
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駕籠屋の小平太は、今日は久々の休みなので、家でくつろいでいた。
愛しい妻は、庭で洗濯を干していて、小平太はその様子を飽きもせずじっと見つめている。
そして、洗濯を干し終わった妻の詩紀は、小平太がこちらをじっと見ていることに気づいて、顔をぽっと赤くした。
「こ、小平太さん…そんな見ても、なにも出ませんよ…」
「わかっている…ただ、詩紀を見ていたいだけだからな」
「もう…」
詩紀は、恥ずかしそうにしながらも、少し嬉しそうに微笑んで部屋に上がり、小平太の隣に座る。
可愛い妻の行動に、小平太は胸が温かくなり、そして甘えたくなって詩紀の太ももに頭を乗せた。
下から詩紀の顔を見ると、顔を赤らめながらも優しく微笑んでいて、小平太はますます甘えてしまう。
そして、小平太は懐に入れていたあるものを詩紀に差し出した。
「詩紀…耳かきして?」
「ふふ…小平太さんったら…」
「なぁ、駄目?」
「いいえ、いいですよ。さ、耳をこっちに向けて」
「うん!」
小平太は、嬉しそうに頷いて、右耳を詩紀の方に向くように顔を横に向けた。
すると、詩紀は小平太に手渡された耳かきを見て、くすっと笑った。
多分、洗濯を干していた時から、準備していたのだろう。
しっかり待っていてくれて、彼も大人になったのだと思った。
そして、優しく小平太の耳を掃除してやった。
右耳が終わり、頭の向きを変えてもらい左耳も掃除してやる。
左耳も終わる頃には、小平太は詩紀の太ももに頭を乗せたまま、眠ってしまっていた。
久々の休みで、仕事の疲れが出たのだろう。
そう思って、詩紀は小平太を起こすことはせずに、優しく頭を撫でてやった。
「おやすみなさい…小平太さん…」
そう囁いて、詩紀もうとうとと浅い眠りについたのだった。