短編

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夢を見た。

それは、詩紀と小平太が初めて出会った時のこと。

詩紀は、繕い屋を営んでおり、その評判はなかなか良かった。

そのおかげか、遠くの地方の人から依頼を受けることがある。

だから、詩紀は一点にはとどまらず、女の身でありながら旅をしていた。

旅先で、少し滞在して、いくつか依頼を受けると、次の場所へ移動する。

しかも、移動手段は、自分の足だ。

あまり、お金を使いたくないから、駕籠屋を利用したことがなかった。

そんなある日のことだ。

とある場所に、しばらく滞在した詩紀は、そろそろ移動しようと思い、荷物をまとめた。

そして、宿屋を出て、今度は西の方を目指そうと歩き出すと、声をかけられた。


「なぁなぁ、そこのお姉さん、遠くに行くなら駕籠に乗ってきなよ!安くしとくぞ!」


それは、駕籠屋の若い男だった。

詩紀は、駕籠に乗る気はないので首を横に振った。


「い、いえ…大丈夫です」

「えー!でも、乗り心地いいぞ?」

「本当に、大丈夫です…」

「でもなぁ、お姉さん別嬪だから、一人旅は心配なんだよなぁ…なっ、長次!」

「もそ…ひとりは、危険だ…」


無口な方も、元気な方の意見に静かに頷いていた。

詩紀は、少し考えた。

確かに、これから向かうところは結構道が険しいと聞く。

その上、追い剥ぎが出るという噂もあるし…。

仕事の道具が盗まれてしまってはどうしようもない、と考えて詩紀は彼らにお世話になることにした。

一応、危険だということを伝えると、彼らはなんともない、と言って駕籠にかかっているすだれを上げた。


「ここに、乗って!」

「あ、はい…」

「大丈夫!私たち、結構強いから、熊でも追い剥ぎでも倒せるよ!」

「はあ…」


熊を倒せるって…
彼は、人間なの…?

少し不安になりながらも、詩紀は駕籠に乗り込んだ。

そして、さっとすだれが下がって、そこに開いている窓みたいなところから、男が覗き込んできた。


「私、七松小平太!で、あっちは中在家長次!道中はよろしくな!」

「は、はい…よろしくお願いします」

「よし!いけいけドンドンで、西まで走るぞぉ!」

「…小平太…あまりはしゃぐな…お客さんが…驚く」

「おぉー!」


そして、彼らは走り出した。

確かに、彼――小平太が言っていた通り、乗り心地は良い。

あまり揺れないわりに、速度も遅くない。

詩紀は、ぼーっと外を眺めていると、小平太が走りながら尋ねてきた。


「そういえばお姉さん、西でなにするんだ?」

「えーと、私、繕い屋をしていまして、あちこち歩きまわっているんです」

「へぇ!繕い屋かぁ…じゃあ、西に着いたら私のやつも繕ってくれよ!駕籠の代金、半分でいいから!」

「そ、それは高すぎます。半分の半分くらいでいいですよ」

「それじゃあ、私が納得いかん!」

「そう言われましても…」


なかなか、彼は頑固な性格らしい。

何度か断ったが、彼は決して頷かなかった。

最終的に、詩紀が折れて駕籠の代金は半分ということになった。
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