短編

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数時間かけて、無事に目的地に着いた。

あんな重そうな駕籠を担いで、相当な距離を走ったというのに、彼らは息ひとつ乱していなくて、詩紀は驚いた。

そして、長次に代金の半分を渡すと、小さい声でありがとう、と言っていた。

詩紀も、頭を下げてお礼を言うと、小平太に腕を掴まれた。


「よし!じゃあ、私の家に行こう!」

「えっ!ちょっ…か、駕籠は…!?」

「あっ、そっか!ちょっと待ってて!」


小平太と長次は、再び駕籠を担いで、どこかへ行ってしまった。

残された詩紀は、仕方なく小平太を待つことにした。

しかし、彼は待つ時間を与えないほど早く戻ってきた。


「待たせたな!じゃあ、行くぞ!」

「はい」


案内された家は、庭がある一軒家だった。

結構、お金持ちなのかな、と考えた。

家には、誰もおらず、生活感もあまりない。


「私以外、誰も住んでいないんだ」

「あ…そうなんですか…」

「…いま、着物持ってくるな!」

「はい」


一瞬、寂しそうな顔になった小平太だったが、すぐに人懐こい笑顔に戻り、別の部屋に行った。

詩紀は、その場に座って小平太を待つことにした。

しばらくして、大量の着物を持った小平太が戻ってきた。

確かに、この量なら、あの値段が妥当だろう。

詩紀は、内心肝を冷やした。


「すまないが、これらを頼む!」

「はい、かしこまりました。いつまでとか、ご指定はありますか」

「いや、ないぞ!あ、でも!」

「はい、なんでしょう」

「その仕事、この家でやって!」


思わぬ条件に、詩紀は固まった。

それは、つまり…


「私の家で寝泊まりしていいから!」

「…そ…それは…その…」

「ん?だから、私の家に、滞在していいってこと!」


そんなこと、今まであっただろうか。

いや、ない。

確かに、寝泊まりするところが決まったのは嬉しい。

嬉しいが、この家に男女が2人きりというのは、いかがなものだろうか。


「じゃ、そういうことで、しばらくのあいだ、よろしくな!」

「…はい…」

「あ!名前聞いてなかったな!なんて言うんだ!?」

「…詩紀、です」

「詩紀か!可愛いな!」

「!!?」


自然に可愛いと言われて、詩紀は顔を赤らめた。

それからというもの、詩紀は繕い物がなくなるまで、小平太の家に滞在していた。

しかし、詩紀が繕い物を5つ終わらせると、小平太は6つ増やしてくるのだ。

というのも、仕事先で着物が破れてしまうらしい。

詩紀は、終わらない繕い物に、困っていた。

そして、数日経ったある日、夕ご飯を食べている時、ついに詩紀は小平太に申し出た。
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