短編

□好きな子
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その変化は、突然現れた。

いつものように、詩紀のもとにいくと、彼女は泣いていた。

静かに、ただ淡々と。

私は、それを見て、なんだかとても焦った。

いつもより速く彼女に駆け寄ろうすると、詩紀は私に気づいた。

そして、よろよろと立ち上がり、その場から離れようとした。

だが、詩紀は、なにもないところで転んでしまった。

私は、詩紀に駆け寄る。


「…や、だ……こ、ない、で………」


詩紀は、なんとか立ち上がろうとするが、手足に力が入らないようで、うまく出来ていない。

そして、私は詩紀が初めて拒絶したことに、驚いていた。

私は、悲しいような、寂しいような気持ちになった。

そして、何故か詩紀の身体を優しく抱き寄せていた。

すると、やっぱり彼女は細い腕で抵抗した。


「はな、して……」

「…嫌だ、と言ったら?」


そう言うと、彼女はぽろぽろと涙を流し始めた。

私は、焦った。

泣かせるつもりは、なかった。

ただちょっと、困らせてみたいとは、思ったけれど。


「い、や……きみに、いじわる、されるの…いや…」


詩紀は、力なく抵抗した。

私は、ふと彼女の身体つきを見て、やけに痩せていることに気づいた。

そして、その時、私は幼いながらも、理解してしまった。

彼女の家が、貧しいのだと。

だから、詩紀は小さい頃から、遊ばずに家の手伝いをしていたのだろう。

食べるものが少ないから、少しでも働いて、家族の負担を減らしたかったのかもしれない。

ましてや、村の子どもと遊んでしまえば、お腹が非常にすいてしまうため、貧しい家に生まれた詩紀は、遠慮していたのかもしれない。

今も、家は貧しいままで、だから詩紀は、こんなにやせ細って、体力もあまりなく、なにもないようなところで転ぶのだろう。

私は、そう理解した瞬間、今まで意地悪してきた自分に怒鳴りたくなった。

なんて、自分勝手で、自己中心的な奴なんだと。

私は、夢中で詩紀に謝った。


「ごめん…ごめんな…」


こんなことで、許してもらえるとは思わないけれど、そうしなくちゃいけない気がした。

詩紀は、なにも言わなかった。
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