短編

□声が聞こえる
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今日は、絶好の散歩日和だ。

天気はいいし、気持ちいいくらいの風も吹いている。

仕事は、お休みだし、今日は久々に少しだけ遠くに散歩に行こうかな。

私は、外を見て尻尾をぶんぶん振る小平太に首輪をつけてやった。


「小平太、今日は渦正公園まで行こっか」


小平太の頭を撫でながら言うと、わんっ!と元気な返事をもらった。

私は、小平太と一緒にその公園に向かった。


















公園に着くと、結構犬を連れた人が多かった。

その中に、偶然にも知り合いを見つけたので、駆け寄った。


「伊作、偶然だね」

「あ、詩紀も散歩?」

「うん」

「僕も。今日は天気がいいからね、散歩してるんだ」


伊作の連れている犬の留三郎と、小平太は結構仲が良いので、じゃれて遊んでいた。

すると、伊作は思い出したように、鞄から何か取り出した。


「詩紀、これ作ってみたんだ」

「ん?なにこれ」

「聞いて驚いてよ!これは、新薬イヌトハナセール!なんと!これを飲むと、犬と話せるようになるんだ!」

「ネーミングセンスないね。というか、それ、効果はあるの?」

「ナチュラルに酷いっ……あ、効果はあるよ。僕が試した」

「へぇー。じゃあ、留三郎が言ってることがわかるんだ?」

「うん!伊作はしょうがねぇなってよく言われてる」

「…あー、理解した」


確かに、伊作はしょうがない。

不運だし。

留三郎じゃなくて、伊作が迷子になるし。

留三郎じゃなくて、伊作が泥まみれになるし。


「ということで、詩紀にもあげるね!」

「え、あ、ありが、とう?」

「なんか反応微妙!」

「ヱーソンナコトナヰヨー」

「棒読み!」


伊作に変な薬をもらった。

別に欲しくないが、犬と話せるなら、小平太の言ってることがわかるのか。

それは、少し魅力的かもしれない。

そして、しばらく伊作と話していたら、お昼手前になったので、私は留三郎と遊んでいる小平太を呼んだ。


「小平太ー、そろそろ帰るよー」


すると、いままで夢中でじゃれていたのに、私が声をかけると一目散に走り寄ってきた。

そんな小平太を見て、伊作は苦笑いをこぼしていた。


「本当に、小平太って詩紀が好きだよね」

「嬉しいことだよ。じゃ、帰るねー、留三郎もまたね」

「じゃあな…って言ってるよ!」


伊作の薬を信じた訳ではないけど、家に着いたら、薬を飲んでみようと思った。
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