短編

□夏恋花火
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草むらに着くと、小平太と詩紀はそこに座り、花火が上がる夜空を見上げた。

夜空に上がる花火は、儚く散って、また別の花火が上がる。

詩紀は、その花火が、まるで自分のように思えた。

そして、誰にも聞こえない声で、呟いた。


「…消えないで」


この花火も。


「…消えないで」


この時間も。


「消えないで」


私の、命も。


詩紀は、先のない未来が悲しくて、涙が溢れそうになった。


どうして…

どうして、私は病気なの?


そう思うと、詩紀の心臓はさらに痛み出して、視界がぼやけてきた。


どうして、いまなの?


もう、身体を支えていられなくて、小平太に寄りかかった。


「詩紀…?」

「こへ……」

「詩紀?ど、どうした?」


もうほとんど見えない視界の中、キラキラ光るものと、小平太の顔が見えた。


あなたといられるこの一瞬を照らし出して

夢に見た、あなたと見る花火で

ねぇ、きえないで、

あなたとの一瞬を忘れないように、


「……離れたく、ないよ」


小平太の左手から、詩紀の右手が滑り落ちた。


「え………?」

「詩紀…?」

「詩紀…どうしたんだ…?」

「こんなところで寝たら、風邪、ひくぞ…?」

「詩紀、起きてくれ」

「頼む、詩紀…起きてくれ!」


小平太は、まだ温かい詩紀の右手を握り締めた。


なんで…

さっきまでは、普通に話してたのに…


優しい顔で眠る詩紀は、もう二度と起きない。

どんなに呼びかけても、それに答えてくれる声はない。

小平太は、理解した時、声をあげて泣いた。

詩紀を強く抱き締めながら、泣いた。

どうして、と何度も夜空に問いかける。

打ち上げられた花火が消えていくだけで、答えてくれるものは、いない。
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